私たちが日々親しんでいる「バレエ」という芸術は、実はまだ日本に根づいて間もない表現文化だということをご存じでしょうか。
少しバレエの歴史を見てみましょう。
バレエの歴史は“国の枠”を越えて紡がれてきた
バレエの起源は、イタリア・ルネサンス期の宮廷舞踊にさかのぼります。
その後、フランスでは王権を象徴する芸術として発展し、現在に通じる基本ポジションや形式が確立されました。
やがてそのバレエはロシアに渡り、厳格な訓練体系とともに身体表現として大きく拡張されていきました。
こうした歴史を語るとき、私たちはしばしば「イタリア → フランス → ロシア」と、国ごとにバレエの発展を切り分けてしまいがちです。
しかし実際には、国境を越えて活躍する芸術家たちの存在が、この芸術をつないでいるのです。
ロシア・バレエを形作ったのはフランス人
ロシア・バレエの代名詞とも言える『マリウス・プティパ』は、フランス出身のバレエダンサーです。
彼はサンクトペテルブルクの宮廷で活動し、『パキータ』『眠れる森の美女』『白鳥の湖』『ドン・キホーテ』などを振付け、クラシック・バレエの礎を築きました。
つまり、世界が知るロシア・バレエの名作群を生み出したのは、ロシア人ではなくフランス人だったという事実。
これは意外と忘れられがちです。
イタリア人の功績も見落とせない
ロシアで活躍し、その後『バレエ・リュス』の中心人物としても知られ、ワガノワメソッドやイギリス・バレエにも影響を与えた『エンリコ・チェケッティ』は、イタリア出身のダンサー・教育者です。
彼のチェケッティ・メソッドは本部があるイギリスをはじめ、今も世界中で学ばれています。
ロシア出身で世界を舞台にしたバレエの巨匠も
『ジョージ・バランシン(本名:ギオルギ・バランチヴァーゼ)』は、ロシア出身の振付家であり、アメリカに渡ってニューヨーク・シティ・バレエ団を創設しました。
彼のスタイルは「ネオ・クラシック」と呼ばれ、今日のアメリカン・バレエの基礎になっています。
ザ・アメリカのバレエ!というようなスタイルを確立した彼がロシア人であることも面白いですよね。
そして同じくロシア出身のルドルフ・ヌレエフは、ダンサーとしてはもちろん、その後パリ・オペラ座の芸術監督としてその作品と世界を代表する多くのバレエダンサーを輩出していること、さらにバレエダンサーのミハイル・バリシニコフの存在も忘れてはなりませんね。
バレエは「混ざり合い」で進化してきた
このように、バレエは一つの国や人で完結する芸術ではありません。
イタリアで生まれ、フランスで洗練され、ロシアで完成された──というのは一つの見方にすぎず、
実際には、イタリア人、フランス人、ロシア人が互いに影響を与え合いながら、バレエを形づくってきたのです。
どの国のバレエが「最高」かを語ることは簡単ですが、
その背後には、国を越えた人と人とのつながりと、時代ごとの混ざり合いがあることを忘れてはなりません。
日本のバレエで忘れがちなことだと思いますが、これまでの歴史的な事実を踏まえると、バレエの本質は『受け継ぎ、混ざり合い、進化していくこと』にあるのです。
ですから、主観的にどの時代のどのバレエが好きか、などはありますが、相対的にどれが優れているかという問い自体に意味はないと思います。
「趣味バレエ」の価値──プロではなくても、誇りをもって踊るということ
日本にバレエが初めて伝えられたのは、1911年のこと。
それからおよそ114年が経ち、バレエは今や多くの人にとって「日常の一部」となりました。
かつては一部の人々だけの特別な芸術だったバレエも、現在では子どもから大人まで多くの人がレッスンに親しまれる「習い事」や「趣味」として広く根づいています。
プロフェッショナルとしてのバレエ
一方で、厳しいトレーニングを日々積み重ね、舞台での表現を生業とする人々もいます。
選び抜かれた身体、鍛え上げられた技術、そして観客の心を動かす表現──
それらすべては、「職業としてのバレエ」の重みを象徴しています。
こうした存在を、私たちは「プロフェッショナル」と呼び、社会的にも経済的にも確かな価値を認めています。
では、プロではない私たちは“まねごと”なのか?
レッスンに通い、バレエを楽しむ多くの人たちにとって、こんな疑問が浮かぶことがあります。
「プロではない自分の踊りは、ただの“まねごと”にすぎないのだろうか?」
その問いに対する答えは、はっきりしています。──決して、そうではありません。
「趣味としてのバレエ」に宿る価値
バレエを趣味として続けている人々、“趣味バレエ”の世界には、プロとは違った豊かな価値があります。
- 「好きだからこそ続けられる」こと
- 「心から楽しいと感じられる」こと
- 「日常の中で自分自身と向き合える」こと
ピアノを弾くこと、料理を楽しむこと、映画を味わうこと。
バレエもまた、人生を豊かにする「趣味」のひとつであることに、何の違和感もいりません。
技術を磨きたい気持ちも、大切な気持ち
もちろん、レッスンのなかで「上手になりたい」「もっと美しく踊りたい」と願うことも大切です。
でもその根底にあるのは、「好き」という純粋な気持ち。
だからこそ、誰かと比べる必要はありません。
プロと同じでなくてもいい。私たちは「好きだから踊る」
そのことにもっと誇りを持っていいのです。
「趣味で続けるバレエ」は、大人の豊かさの象徴
バレエを趣味として続けることは、決して軽く見られるべきことではありません。
むしろ、それは成熟した大人の豊かな営みであり、自分の時間を大切にする姿勢そのものです。
心地よい身体の使い方を、一緒に探していきましょう
そんな“趣味バレエ”の世界でこそ大切にしたいのが、「心地よい身体の使い方」。
プロのように高く飛ぶことや完璧な形を目指すだけでなく、
自分の身体と対話しながら、丁寧に動くことにこそ、深い喜びがあります。
これからも一緒に、「好きだから続ける」バレエの豊かさを、見つめていきましょう。
バレエジャポン編集部
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