なぜ、バレエ安全指導者資格®は
生まれたのか
守るべき伝統と、変えていかなければならない慣習を分けて考え、バレエを学ぶ人の身体、心、尊厳、そして未来を守るために。
日本には、世界で長く受け継がれてきた優れたバレエ教授法を学べる場所があります。それでも私たちは、新たに「バレエ安全指導者資格®」を創設しました。
目指したのは、新しい流派や教授法をつくることではありません。どのメソッドを学ぶ先生にも共通して必要となる、安全・健康・尊厳・倫理・教育の土台をつくることでした。
一人の経験や善意だけでは解決できない課題を、バレエ業界の内外で共有し、多分野の知識と経験を持ち寄りながら、次の世代へよりよい環境を手渡すためです。
既存の教授法に代わるのではなく、
その上に重ねる「安全の共通基盤」
ワガノワ・メソッド、チェケッティ・メソッド、RADをはじめ、バレエには長い歴史の中で築かれてきた教授法があります。技術、音楽性、表現、身体の使い方、年齢に応じたカリキュラムには、先人たちの知恵が蓄積されています。
バレエ安全指導者資格®は、それらと競うために生まれたものではありません。どの流派であっても、生徒の尊厳を守ること、痛みを無視しないこと、成長期の身体に配慮すること、心身の異変に気づき、必要な専門家へつなぐことは共通して求められます。
すべての教室で共有できる安全の土台を。
それぞれの先生が大切にしてきた経験や教授法を尊重しながら、その上に医学、科学、心理、栄養、倫理、教育の視点を重ねていく。そこに、この資格独自の役割があります。
カリキュラムより先に、
現場の声を聴くことから始めました
資格をつくるにあたり、私たちは初めから講義数や科目構成を考えたわけではありません。まず行ったのは、バレエの現場で何が起きているのかを知ることでした。
ダンサー、生徒、先生方、保護者の方々、バレエ団や指導現場に関わってきた人たちから、長い時間をかけて話を伺い、調査と対話を重ねてきました。そこには、バレエの美しさや喜びだけでは語ることのできない現実もありました。
- 痛みがあっても言い出せず、踊り続けてしまう。
- 成長期の身体へ、年齢に合わない負荷がかけられる。
- 体重や体形への言葉によって、自分の身体との関係を損なう。
- 指導に疑問を感じても、立場の違いから声を上げられない。
- 指導者自身も、判断に迷いながら一人で責任を抱えている。
もちろん、すべての教室やバレエ団で同じことが起きているわけではありません。生徒のために誠実に学び、よりよい環境をつくり続けてきた先生方も数多くいます。
それでも、多くの声を聴く中で、個人の問題として片づけることのできない共通の課題が見えてきました。身体の安全だけではなく、安心して疑問や痛みを伝えられる関係性、相談できる仕組み、声を上げても不利益を受けない環境が必要でした。
知識を増やすだけではなく、
迷ったときに考え、判断する力を
バレエ指導の現場では、踊り方や技術の教え方だけでは答えを出せない場面が数多くあります。
生徒が痛みを訴えたとき、レッスンを続けてよいのか。成長期の子どもへ、どの程度の負荷をかけてよいのか。食事を減らしている生徒へ、どのような言葉をかけるのか。異変に気づいたとき、保護者へどう伝え、どの段階で医療や心理、栄養の専門家へつなぐのか。
目の前の生徒に、どの知識を当てはめるのか。
何を続け、何を中止し、何を調整するのか。
指導者として対応できる範囲はどこまでか。
誰へ、どのタイミングで相談するのか。
踊れることと、安全に教えられることは同じではありません。バレエ安全指導者資格®が育てたいのは、知識をたくさん覚えた人ではなく、複雑な状況を一つの見方で決めつけず、考え、判断し、必要な行動を選べる指導者です。
一人の正解ではなく、
異なる専門性を持ち寄る
この資格は、一人の教師が考案した一つの教授法ではありません。舞台やバレエ団の現場を知る人、長年生徒と向き合ってきた先生、海外の教師資格を持つ指導者、医師、理学療法士、公認心理師、栄養士、そして音楽、歴史、哲学、美術、服飾、教育などの専門家が、それぞれの視点を持ち寄りながらつくられています。
身体の問題は医療だけでは解決できません。心の問題も心理学だけで完結するものではありません。指導方法だけを改善しても、教室の制度や人間関係、保護者との連携が変わらなければ、生徒を守りきれないことがあります。
必要な人とつながり、同じ課題を共に考える。
一人の教師が、すべての専門家になる必要はありません。大切なのは、自分の知識や経験だけでは判断できないことに気づき、専門家を尊重し、生徒のために協力できることです。
目の前の上達だけでなく、
20年後、30年後の人生まで
バレエを学ぶ時間は、生徒の人生の一部です。舞台に立つ喜び、表現する楽しさ、努力を積み重ねる経験は、その人の人生を豊かにしてくれます。技術の上達も、もちろん大切です。
しかし、目の前の発表会やコンクールの結果のために、将来の身体や心が犠牲になってよいわけではありません。成長期の無理や、レッスンでかけられた言葉が、その後の人生へ長く影響することがあります。
反対に、教室で安心して自分を表現し、自分の身体と心を大切にできた経験が、その後の人生を支える力になることもあります。
自分の身体と心を大切にしながら人生を歩んでいけること。
指導者が向き合っているのは、脚の高さや回転数だけではなく、一人の人間の成長です。生徒の今日だけではなく、その先の健康と人生まで見据えること。それが、安全なバレエ指導の先にあるものだと私たちは考えています。
バレエを愛しているからこそ、
協力して変えていく。
この資格は、これまでのバレエ指導を否定するために生まれたものではありません。長い時間をかけて受け継がれてきた技術、芸術性、そして指導者の先生方の経験に、私たちは深い敬意を持っています。
そのうえで、守るべき伝統と、変えていかなければならない慣習を分けて考える。医学や科学、子どもの権利、ハラスメントに対する社会の認識など、更新されていく知識を学び、次の世代へよりよい環境を手渡していく。
さまざまな道を歩んできた人たちが、バレエを愛するという一点でつながり、生徒の身体、心、尊厳、そして未来を守るために、知識と経験を持ち寄る。
一人の力では変えられないものを、バレエ業界の内外で協力しながら、未来に向けて少しずつ変えていくこと。
すでに全国から、
新しい一歩が始まっています
そして今、この思いに共感し、これまでの指導を大切にしながら、さらに学びを深めようとする多くの先生方が、全国から一歩を踏み出してくださっています。
年齢も、経験も、教えている環境もさまざまです。それでも共通しているのは、生徒の身体と心を守り、よりよいバレエ教育を次の世代へ手渡したいという思いです。
一人で、すべてを変える必要はありません。同じ思いを持つ仲間や、それぞれの分野の専門家とつながりながら、できることから少しずつ始めていく。その一歩が教室を変え、やがてバレエ界の未来を変えていきます。
生徒たちの身体、心、尊厳、そして未来を守るために。
より安全で、より豊かなバレエ教育を、
ここから一緒につくっていきましょう。
