観劇レポート
この日、バレエに大切なのは「自由」なのかもしれないと感じました。型を極めた先に現れる自由さ。日々、バレエが与えてくれる無限の可能性を感じずにはいられません。
そんな事をBプロ開幕一番に心に届けてくれたのは、マリーヤ・アレクサンドロワとヴラディスラフ・ラントラートフの『ライモンダ』でした。心洗われる演技でした。
そして、ドラマチックバレエの印象が強く残る公演でした。
サラ・ラムとウィリアム・ブレイスウェルの『ロミオとジュリエット』は、本当に特別でした。
彼らの『ロミオとジュリエット』は、ただストーリーを追うだけの役作りではなく、自分自身の解釈と経験が深く根付いているのを感じました。舞台上の彼らは芯のあるキャラクターをしっかりと表現していて、その安定感は観ていて心地良くなりました。
そして何より、二人の人生観が舞台を通して観客席にまで伝わってきます。彼らの演技は技術であるというよりも、まるで人生そのものを見せてくれているようでした。
エリサ・バデネスとフリーデマン・フォーゲルの『マイヤーリンク(うたかたの恋)』より第2幕のパ・ド・ドゥは、太宰治の作品に感じる危うい恋愛模様のように、生の純粋さや本能的な衝動に引き込まれました。危険な恋に焦がれる少女マリーを演じたバデネスと、骸骨と拳銃を手に、目を離せない魅力を放つ、フォーゲル演じるルドルフ皇太子の物語の全貌を、一刻も早く劇場で観られる日を楽しみにしています。
一方、ドロテ・ジルベールとユーゴ・マルシャンの『オネーギン』の終幕の激情や、『マーラー交響曲第3番』のアレクサンドル・トルーシュの影をまとったような哀愁、深遠な表現など、ダンサーや作品ごとに異なる美があることを改めて実感しました。バレエはただ表面的な美しさだけでなく、人の心の奥深くにある闇や光を引き出す芸術だと感じます。
最後を飾ったのは、菅井円加さんとダニール・シムキンによる『ドン・キホーテ』。菅井さんの凄まじい音楽性に圧倒されました。身体全体が響きを生み出す器でした。菅井さんは舞台上で圧倒的な存在感を放ち、彼女のジャンプには重さと浮遊感が見事に共存しています。圧倒されて涙を流す舞台を観たのは久しぶりでした。
バレエは美しいということだけに囚われず、その先にある自由や個性、そして人間そのものの魅力を伝えてくれる芸術だから、抜け出せないのだと思います。
きっとバレエはただの美の追求では終わらず、型を破り、新しい芸術を残すための挑戦でもあるのかもしれません。そう強く思える一日でした。
文:大海遊楽
【大海 遊楽 プロフィール】

6歳よりバレエを始める。
2016年14歳 Hearts&MindsBalletConcursにて、ロシア国立ボリショイバレエ学校サマースカラシップを受賞。サマースクールにて年間留学オーディションに合格し、翌年より同校に留学。
バレエ安全指導者資格ベーシックコース、プロフェッショナルコース修了。
バレエ安全指導者資格認定バレエ姿勢ベーシックインストラクター。
バレエジャポン専属アートライター
8月7日(水)18:00
8月8日(木)18:00
8月9日(金)14:00
8月10日(土)14:00
「ライモンダ」第3幕より(マリウス・プティパ振付)
マリーヤ・アレクサンドロワ
ヴラディスラフ・ラントラートフ
「欲望」(ジョン・ノイマイヤー振付)
シルヴィア・アッツォーニ
アレクサンドル・リアブコ
「うたかたの恋」より第2幕のパ・ド・ドゥ(ケネス・マクミラン振付)
エリサ・バデネス
フリーデマン・フォーゲル
「ア・ダイアローグ」(ロマン・ノヴィツキー振付)
マッケンジー・ブラウン
ガブリエル・フィゲレド
「ル・パルク」(アンジュラン・プレルジョカージュ振付)
アレッサンドラ・フェリ
ロベルト・ボッレ
「オネーギン」より第3幕のパ・ド・ドゥ(ジョン・クランコ振付)
ドロテ・ジルベール
ユーゴ・マルシャン
「アミ」(マルセロ・ゴメス振付)
マルセロ・ゴメス
アレクサンドル・リアブコ
「ロミオとジュリエット」より第1幕のパ・ド・ドゥ(ケネス・マクミラン振付)
サラ・ラム
ウィリアム・ブレイスウェル
「ジュエルズ」より“ダイヤモンド”(ジョージ・バランシン振付)
永久メイ
キム・キミン
「マノン」より第1幕の寝室のパ・ド・ドゥ(ケネス・マクミラン振付)
ヤスミン・ナグディ
リース・クラーク
「海賊」(マリウス・プティパ振付)
マリアネラ・ヌニェス
ワディム・ムンタギロフ
「バクチIII」(モーリス・ベジャール振付)
大橋真理
アレッサンドロ・カヴァッロ
「ソナチネ」(ジョージ・バランシン振付)
オニール八菜
ジェルマン・ルーヴェ
「マーラー交響曲第3番」(ジョン・ノイマイヤー振付)
菅井円加
アレクサンドル・トルーシュ
「ドン・キホーテ」(マリウス・プティパ振付)
菅井円加
ダニール・シムキン
「ニーベルングの指環」(モーリス・ベジャール振付)
ディアナ・ヴィシニョーワ
ジル・ロマン