世界バレエフェスティバル Aプロ 2024年7月27日【大海遊楽の恋するバレエ】

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観劇レポート

3年に一度のバレエの祭典、第17回<世界バレエフェスティバル>のAプログラム初日を、友人と共に観劇してまいりました。

開幕を飾ったのは、シュツットガルト・バレエ団の若手ペア、マッケンジー・ブラウンとガブリエル・フィゲレドによるクランコ版『白鳥の湖』から黒鳥のパ・ド・ドゥ。クランコ版の特徴として、本来王子が踊るバリエーションの音楽で黒鳥が舞います。黒鳥の振り付けや雰囲気は他の振付家のものと比べ、高圧的で鋭さが際立っていました。この二人はBプログラム、ガラで踊ったコンテンポラリー作品が大変素晴らしく感銘を受けました。また次回綴らせていただきますが、これこらが楽しみな二人です。

次に印象に残ったのは、オルガ・スミルノワとビクター・カイシェタによるマイヨー版『くるみ割り人形』のパ・ド・ドゥ。二人の演技には、身体で愛を語るようなロマンティックな情熱が溢れていました。作中で何度キスを交わしたか、数え切れないほどです。機会があれば全編を味わいたい作品でした。

英国ロイヤル・バレエ団のサラ・ラムとウィリアム・ブレイスウェルが踊った『マノン』第一幕の出会いのパ・ド・ドゥは、特に楽しみにしていました。サラのマノンは、ワディム・ムンタギロフとのペアで映像化されており、私も何度も観ています。アヴェ・プレヴォ原作の『マノン・レスコー』には、マノンの具体的な容姿描写はありませんが、サラはその魅力を体現していました。私がデ・グリューなら、振り回されても幸せだと感じるほどです。ウィリアムが踊るデ・グリューのソロも素晴らしく、一つひとつのムーブメントが優しい詩のように感じられました。実は今回の来日で初めてペアを組んだこの二人。全幕での共演が待ち遠しいです。

第2部の最後は、永久メイさんとキム・キミンによる『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』でした。個人的に、この日のベストパフォーマンスでした。驚いたことに、永久さんにとってこの作品は初挑戦だったようで、その記念すべき日に立ち会えたことを光栄に思います。彼女の細身の身体から発するエネルギーは音楽と一体化し、力強さを感じさせました。キミンの卓越したテクニックは、まるで飛行機のようなジャンプを思わせます。ヤスミン・ナグディも自身のInstagramで同じ感想を述べていましたが、私も全く同感でした。実は飛行機が苦手な私にとって、そのジャンプが少し不安に感じられるほどでした。飛んだまま降りれないのではないかと思ってしまうほどの飛躍力をもったダンサーは他にいません。

第3部では、ジル・ロマンと小林十市さんによる新作『空に浮かぶクジラの影』が心に残りました。モーリス・ベジャールに学んだヨースト・フルーエンレイツが、この公演のために振付を担当した作品です。風船が何度も登場し、何を象徴しているのか分かりませんでしたが、それがただの風船であったとしても愛おしい作品でした。一度しか観ることができなかったのが悔やまれます。

11月2日から始まるシュツットガルト・バレエ団の来日公演から、エリサ・バデネスとフリーデマン・フォーゲルによる『椿姫』第一幕のパ・ド・ドゥを一足先に堪能。45歳を迎えたフォーゲルのアルマンは、青年にしか見えませんでした。その一言に尽きます。二人が紡ぐ物語の全貌を、来月の本公演で観るのが楽しみです。それまでにデュマ・フィスの原作を読み込もうと思います。

Aプログラムのラストを飾ったのは、ロイヤル・バレエ団の黄金ペア、マリアネラ・ヌニェスとワディム・ムンタギロフによる『ドン・キホーテ』。抜群の安定感、そして頭が一つ抜けた華やかさ。『ドン・キホーテ』という作品の持つ魅力を存分に伝えてくれる素晴らしい締めくくりでした。

バレエ鑑賞が趣味だと言うと、「優雅でいいね」と言われることが多いですが、私自身は一度もそう感じたことがありません。それでも、開幕前や幕間にロビーでシャンパンやワインを片手に談笑する観客たちを見ていると、「優雅だなぁ」と憧れることがあります。お酒が飲めない私にとって、シャンパンを片手に劇場に佇むスタイルは一生味わえませんが、自分なりの鑑賞スタイルを気に入っています。劇場でのバレエ鑑賞は、私にとって心との戦いです。幕間や終演後にはノイズキャンセリングのイヤホンを装着し、スマホのメモや日記帳に言葉が尽きるまで思いを書き殴ります。良い作品や素晴らしいダンサーに出会うと興奮するものの、テンションが上がることはなく、代わりに鋭い頭痛に襲われることが多いです。放心状態になることも多く、せっかく劇場に行くからと着飾って持ったルイ・ヴィトンのバッグを客席に置いて帰ってしまうこともありました。忘れもしません。〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉を観た後でした。それほど心を奪われてしまうのです。

最初に述べたように、今回は友人と共に観劇し、18時開演、22時30分終演という長丁場のAプログラムを堪能しました。休憩が3回あり、ロビーでは「この作品が良かった!」「このダンサーがすごかった!」と興奮気味に語り合う声が響いていました。その一方で、私たち二人は休憩ごとに姿勢が悪くなり、無表情になり、頭痛に苦しみながら「頭痛いね」と苦笑いし合う時間がとても愛おしく感じられました。優雅とは言えないかもしれませんが、私にとってはこれ以上ない幸せなひとときでした。

これからも、舞台に立つ人たちや作品に携わるすべての人たちの全身全霊を、全身全霊で受け止めていきたいと思います。頭痛の種になるほどの“バレエ”という存在に出会えて感謝の日々です。


文:大海遊楽

【大海 遊楽 プロフィール】

6歳よりバレエを始める。
2016年14歳 Hearts&MindsBalletConcursにて、ロシア国立ボリショイバレエ学校サマースカラシップを受賞。サマースクールにて年間留学オーディションに合格し、翌年より同校に留学。
バレエ安全指導者資格ベーシックコース修了。
バレエ安全指導者資格認定バレエ姿勢ベーシックインストラクター。
バレエジャポン専属アートライター


世界バレエフェスティバル Aプロ 2024年 公演概要

7月31日(水)18:00 
8月1日(木)18:00 
8月2日(金)14:00 
8月3日(土)14:00
8月4日(日)14:00

「スペードの女王」(ローラン・プティ振付)
マリーヤ・アレクサンドロワ
ヴラディスラフ・ラントラートフ

「マーキュリアル・マヌーヴァーズ」(クリストファー・ウィールドン振付)
シルヴィア・アッツォーニ
アレクサンドル・リアブコ

「椿姫」より第1幕のパ・ド・ドゥ(ジョン・ノイマイヤー振付)
エリサ・バデネス
フリーデマン・フォーゲル

「白鳥の湖」より 黒鳥のパ・ド・ドゥ(ジョン・クランコ振付)
マッケンジー・ブラウン
ガブリエル・フィゲレド

「アフター・ザ・レイン」(クリストファー・ウィールドン振付)
アレッサンドラ・フェリ
ロベルト・ボッレ

「アン・ソル」(ジェローム・ロビンズ振付)
ドロテ・ジルベール
ユーゴ・マルシャン

「アウル・フォールズ」(セバスチャン・クロボーグ振付)
マリア・コチェトコワ
ダニール・シムキン

「マノン」より第1幕の出会いのパ・ド・ドゥ(ケネス・マクミラン振付)
サラ・ラム
ウィリアム・ブレイスウェル

「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」(ジョージ・バランシン振付)
永久メイ
キム・キミン

「クオリア」(ウェイン・マクレガー振付)
ヤスミン・ナグディ
リース・クラーク

「ドン・キホーテ」(マリウス・プティパ振付)
マリアネラ・ヌニェス
ワディム・ムンタギロフ

「ル・パルク」(アンジュラン・プレルジョカージュ振付)
オニール八菜
ジェルマン・ルーヴェ

世界初演 「空に浮かぶクジラの影」(ヨースト・フルーエンレイツ振付)
ジル・ロマン
小林十市

「くるみ割り人形」(ジャン=クリストフ・マイヨー振付)
オリガ・スミルノワ
ヴィクター・カイシェタ

「3つのグノシエンヌ」(ハンス・ファン・マーネン振付)
オリガ・スミルノワ
ユーゴ・マルシャン

「ハロー」(ジョン・ノイマイヤー振付)
菅井円加
アレクサンドル・トルーシュ

「シナトラ組曲」(トワイラ・サープ振付)
ディアナ・ヴィシニョーワ
マルセロ・ゴメス

https://www.nbs.or.jp/stages/2024/wbf/index.html

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