見えない痛みが教えてくれたこと
長男の原因不明の体調不良は、精神的なものと診断されたものの、症状は深刻でした。腹痛や微熱から始まり、体の部分的な痛み、目の焦点が合わず、食事もほとんど取れない状態。
「このままでは改善しない」と思い、おんぶをして外の空気を吸わせる、音楽を流す、栄養よりもまず「食べられるもの」を優先して探すなど、できることを一つずつ試しました。反応を示さない時間が続く中で、長男の心に何が起きているのかを考えました。4年生ともなれば、あれこれ聞かれるのを嫌がるだろうと、できるだけ干渉は控えていました。けれども振り返ると、私は忙しさを理由に長男の話を聞き流していたのだと気づきました。そういえば、「先生に質問しても納得のいく答えが返ってこない」と何度か口にしていたのに、きちんと受け止めていなかったかも。さらに思い返すと、入学時はコロナ禍で閉鎖的な環境が3年も続き、急に人との距離が近くなったせいか、学校生活では友人同士のトラブルが頻発していて、トラブルを見ていた長男は上手く解決できずに悩んでいたことを話してくれていた。習い事でも先生とのやり取りに納得できないこともあった。人との関わりが好きなはずの長男が、「話しても解決しないなら黙っていよう」と、いつの間にか諦めるようになっていたのかもしれません。本人も私も気づかないうちに、心の中に絡まった糸がいくつも重なってしまっていたのでしょう。
体調が少し良い日に学校へ行こうとすると腰の激痛。習い事の見学に連れ出すと腹痛。まるで「社会との関わり」を拒むような反応に、私の心も折れそうになりました。それでも「人とのつながりを諦めてほしくない」と思いました。生きていく中では、人との関わりで傷つくこともある。けれど必ず手を差し伸べてくれる人もいる。外の世界には、これからもっと楽しいことが待っているはずだから。
少しずつ会話が戻り、学校の前まで行ける日、授業を1時間だけ受けられる日。できることが少しずつ増えていきましたが、聴覚過敏になって教室のざわめきに耐えられなかったり、目標を立てても「できなかった時」のことを考えてしまい、今までクリアしていたことができなくなる。まさに「一歩進んで二歩下がる」。その間、次男にはたくさん我慢をさせてしまい、次男自身も食欲が落ちたり、頭痛を訴えることがありました。子どもたちと上手く向き合えていない自分が腹立たしく、悔しく、苦しくてたまりませんでした。それでも支えてくれる人がいて、長男に優しく声をかけてくれる友達もたくさんいました。やはり人は一人では生きていけない。だからこそ、人とのつながりを築いていく大切さを、私が子どもたちに伝えていかなければと強く思いました。
この期間は本当に長かったです。実際には3ヶ月。病院の先生からは「あれだけの症状が出ていたにしては早い」と驚かれました。今では学校に楽しく通い、学校の先生になりたいと夢を語るほどです。子供とはコミュニケーションが取れていると思っていたし、こんなふうに躓く日がくるとは想像もしていなかったけれど、子どもとの向き合い方を改めて考えるようになりました。本やSNSの情報がすべてではなく、それぞれの個性があることを忘れず、心地よい親子関係を築いていくことが大切だと感じました。この経験を通して、人の心の難しさを学び、人の大切さを知り、子どもからたくさんのことを教えてもらいました。
思いがけない出来事に向き合うとき、大切なのは知識や経験を積み重ね、自信を持って対応していくこと。
最後は、そんな時に見つけたバレエ安全指導者資格への思いを綴りたいと思います。
進藤香織
編集部より
今回のコラムでは、とてもプライベートなお話を共有してくださり、心から感謝しております。
原因のわからない体調不良を抱えたお子さまを前に、母としての不安、無力感、そして「それでも何かできることを探したい」という強い思い。文章の一つひとつから、進藤さんの葛藤と優しさ、そして人を信じる力が伝わってきます。
「人との関わりを諦めてほしくない」という言葉には、親としての祈りと教育者としての信念の両方が込められているように感じました。
お話してくださったご体験からは、我が子であってもその心に寄り添うことの難しさと、そこにこそ“教育”の原点があると気付かせてくださいました。
「心の中に絡まった糸」を一つずつ丁寧に解いていくように、時間をかけて信頼を取り戻していく姿。
その過程こそが、まさに“人が育つ”ということなのだと思いました。
また、お子さんへの思いや家族全体の心の揺れまでも率直に綴ってくださったことに、深い感謝いたします。
家庭という最も身近な共同体の中で、人が支え合い、学び合う姿は、私たちが指導現場で目指す「安心と成長の循環」を象徴しているように感じました。
「人の心の難しさを学び、人の大切さを知り、子どもからたくさんのことを教えてもらった」
この一文がすべてを語っているように思います。
毎回のコラムの中に、進藤さんの葛藤と向き合い方、そして学びとがあり、きっとこの先もそのように過ごされるのだと思いますが、コラムを読んでくださる方々にもたくさんのヒントを与えてくださっていると思います。
今回共有してくださったコラムが、同じように悩み、立ち止まりながらも歩もうとしている方々に、そっと寄り添う光となることを願っております。
進藤香織先生プロフィール

桜井勢以子バレエ研究所にて桜井勢以子、石田泰巳に師事。
大学卒業後、ボディケアセラピストとしてボディメンテナス技術を習得。
バレエを取り入れたエクササイズのバレトン®︎インストラクター資格取得。
JADP認定乳幼児リトミックインストラクター®︎資格取得。
現在、桜井勢以子バレエ研究所にてバレトンクラスと親子バレエクラスの講師
バレエ安全指導者資格®ベーシック講座、プロフェッショナル講座修了。
バレエ安全指導者資格®︎認定講師。
【桜井勢以子バレエ研究所】
https://sakurai-ballet.com
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