『踊るとは何かを考えてみる〜 ″今″ 編〜』杉本音音先生(バレエ安全指導者資格修了講師コラム)

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踊るとは何かを考えてみる〜 ″今″ 編〜

あっという間に最終回となってしまいました。
ここまで、「読んでるよ」という言葉が励みになったり、言語化すること自体に気づきがあり、とても豊かな経験をさせていただきました。

今回は、″今″の自分にとっての″踊り″について綴ってみたいと思います。と、言いつつまずは原点から。

小学3年生の時、バレエスクール入学オーディションの面接で「今日のレッスンの感想を教えてください」と聞かれた時、10秒ほどの間をあけて、

「……楽しかったです!」

これしか答えられませんでした。

もっと色々と感じていたはずだし、面接前に考えていたはずだし、言いたかったはずなのに…あまりにも「楽しい」が大きかったのです。その合格通知は、新体操の練習中に母がお弁当と一緒に届けてくれました。
いつも新体操とバレエは自分の中に一緒に居ました。
通知を見て喜んだ後、大ジャンプ(バレエではグランジュッテ)をより一層ふわっと高く跳ぼう!とすぐに練習に戻ったのを今でも覚えています。私の踊りの原点は、この経験なんだと思います。

大人になった今は、予算のこと、企画全体のこと、子供たちに伝えたいこと、社会と関わること…など、もちろん「楽しい」だけでは済まなかったり、あるいは「楽しい」の代わりに 「問いを立てる」だったりもしますが、自分がどう踊りと向き合い、感じるのかが出発点となっています。

自分の身体がおざなりになっていた時は、悩みや不安ばかりが積もって空回りしていました。
身体が健康でいると、心にも楽しめる余裕が生まれます。入院により一度離れて、戻ってきた時にわかったことは、踊りは思ったより逃げていかないということでした。
健康な心身で、きちんと向き合っていたら、フィジカルの努力は少し必要でも、自然とまた踊れるように、楽しめるようになるんだと思います。

今は、削らなくていいところで命を懸けて過ごしていた日々が不思議に思えるくらい、笑うことや感じる豊かさが増えて、自分でも健やかさを感じられています。

「神経性やせ症」になって、完治まで5~10年はかかりますと言われた状況。完治できない患者も少なくありません。でも、絶対踊りながら治す!と、これだけは決めて、できると信じてきました。
退院して2年で8割?くらいまで回復しました。ちゃんと踊りながら。お医者さんも早い方です!と言ってくれました。いや、踊りがあったからだと思います。

近年、小中学校ではダンスが ″体育の″ 授業で必修科されましたが、今ダンスは、美術、体育、芸術、スポーツ、エンターテイメント、教育、福祉など、多様な分野に跨って構築されています。
たとえば、東京都現代美術館で現在行われている展覧会『日常のコレオ』では、ダンスよりも広い範囲で「コレオグラフィー(振付)」という言葉が用いられ、美術作品が展示されています。ここでのグラフィー(振付)」という概念が、ダンスだけに留まらず、社会を考えるきっかけとなっています。

ダンスは言葉を話さない表現ですが、言うまでもなく、言葉も、言葉以外の情報もぎっしりと詰め込まれています。
ここにダンスの可能性があると信じています。

これから、AIがメインで成り立つ世の中になってしまいそうな気がしますが、「人間らしさ」を導いてくれるのは踊りだと思います。それが、バレエでも、新体操でも、コンテンポラリーダンスでも、ストリートダンスだとしても、AIにはできない「今・その身体」だからこそ生まれるもの、見出される感覚の豊かさがあると思っています。
だからこそ、人間らしさ、躍っている健やかな身体がAIに取り巻かれず、ずっとなくならないでほしいと願っています。そのためにも伝えていきたいと思います。

最後までまとまらず、稚拙な文章となってしまいましたが、きっと、言語でまとまってしまったら踊りをやめられるのではないかと思います。けど、言語化を試みることの重要性を改めて感じています。

言語と、言語化されない″あれ″を行き来して、探して、これからも健やかに、踊り、躍り、そして、伝えていきたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。貴重な経験に感謝し、より深く、精進していきます!

杉本音音

参考)東京都現代美術館  開館30周年記念展『日常のコレオ』
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/30th-Anniversary

バレエジャポン編集部より

大変貴重なご体験の共有と心のこもったコラムをたくさんお寄せくださり、本当にありがとうございました。
入院に至るまでの経緯や、治療中に大切にされた「食べる・待つ・ためる」という合言葉、そして〈好きなものを食べる/学ぶ/アウトプットする〉という“前向きな逃げ道”のお話まで、どれも大切な気づきと学びをありがとうございました。

ここで、杉本さんのコラムからいただいたヒントを共有させていただきたいと思います。

  1. からだの声を見逃さないこと
     食事量が減る・運動をやめられない・人づき合いが減る――そんな「小さな変化」は、早めのサインだと気づかせてくれました。声かけは「大丈夫?」よりも「一緒に行こうか」「今日は休もうか」と寄り添う形が良いということ。
  2. 回復の順番をたいせつに
     まずはエネルギーを満たすこと。その上で少しずつ動きを戻すこと。善意の「もっと練習しよう」は、回復を遅らせることがあること。この学びは、多くの指導の現場でもぜひ皆さんにも活かしていただきたいです。
  3. よりどころを増やすこと
     食のたのしみ、学び、表現(アウトプット)。3つの支えがあると、日々の回復が目に見える形になります。ダンスや作品づくりが、心とからだの栄養にもなること。芸術がきっかけで傷つくこともあるけれど、芸術で回復することも確かにできること。その希望を、私たちも共有できました。

また、杉本さんご自身の〈6steps〉の経験や、イヴォンヌ・レイナーの作品から考えた「その人らしさこそ特権」という視点は、バレエや新体操の現場にとって大切な気づきを与えてくださいました。技術のための技術ではなく、「いま・この身体で踊る」ことを守るという、その姿勢に深く励まされました。

勇気あるご共有に、あらためて心より感謝申し上げます。
いただいた言葉を、学びの場づくりやサポート体制の整備に確実につなげていきたいと思います。
これからも、安心して踊り続けられる環境を、皆さまと一緒に育ててまいります。
引き続き、コラムをはじめ、セミナーなどでもお世話になると思いますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

杉本さんには来年2月に開催されますバレエコンクール『バレエコネクション』のメディカルセミナーにご登壇いただく予定ですので、ぜひどうぞご期待ください。

詳細はこちらよりどうぞ。
https://safedance.jp/news/news22/

杉本音音先生プロフィール

1996年生まれ。東京都世田谷区出身。4歳より新体操とクラシックバレエ、15歳でコンテンポラリーダンスに出会う。立教大学現代心理学部映像身体学科卒業。新体操指導歴6年。

様々な振付家の作品に出演。ワークショップも行う。階段を振付として使用したダンス作品「6steps」プロジェクトメンバー。(コンセプト・発起人:木村玲奈)

その他、音楽・写真・テキスタイル・美術・映像など他分野とコラボレーションでの企画、振付、パフォーマンスを行う。身体を以って紡ぐ・思考することを目指して日々″今日のダンス″を探している。

【杉本音音先生オフィシャルサイト】
https://neonsugimoto.jimdofree.com/

杉本先生へのご質問、ご感想等はこちらよりどうぞ!
contact@ballet-japon.com

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