『踊るとは何かを考えてみる~新体操はスポーツか芸術か~』杉本音音先生(バレエ安全指導者資格修了講師コラム)

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踊るとは何かを考えてみる~新体操はスポーツか芸術か~

私は4歳からバレエと新体操を習い、小学5年生の時にどちらかを選ばなければならない状況となった結果、新体操の道を選びました。新体操に打ち込んだ中学校生活を経て、新体操はスポーツから抜け出せないことを感じ、もっと “表現” にフォーカスしたいと思って、コンテンポラリーダンスに転向しました。

一度離れたはずの新体操。大学2年生の時に指導する機会や新体操パフォーマーとしての本番の機会をいただくなど、不思議な縁なのか、もう一度向き合うこととなりました。
「踊る」を考える時、その対比もしくは親戚として体操や運動、スポーツが浮かびます。今回は、新体操を出発点に「踊る」を考えたいと思います。

新体操は「芸術スポーツ」と言われています。特に、芸術性はブルガリアで発展しました。

「新体操はスポーツか芸術か」

この論争は昔から今でもずっと行われています。
バレエが大好きで、でも新体操を続けたかった私も、新体操で芸術をやりたいと、子どもながらに考え、演技に向き合ったりしていました。バレエやダンスも、フィジカル面ではスポーツ選手並みの能力が必要となります。しかし、「芸術」という枠組みからは離れません。
その大きな違いは、″技の競い合いのためのルール″にあります。元来の新体操は、もっと舞踊的なものでした。

モダンダンスの創始者であるイザドラ・ダンカンの精神性や舞踊性を参照し、今でも使われるリボンやボール、ロープといった手具は「感情表現をするため」に使用されたものでした。
しかし、評価となる要素 ″技″ をどれだけ詰め込めるかが重視されたルールへと変更され、手具の使い方もパターン化されていきました。
確かに ″アーティスティック″ と呼ばれる芸術点はあります。しかしそれは、つま先が伸びているか、流れが止まっていないかなどといった技術に関するものであり、内面の感情や音楽へのアプローチや作品性への評価は微々たるもので、″技″ への評価より劣ります。

社会学者/新体操研究者の渡部愛都子氏の著書『新体操はスポーツか芸術か』の中で、得点獲得に関わる身体的難度・手具操作・芸術点以外の、作品の文学的テーマや、音楽効果、それに合わせた振付といった得点にならない装飾部を『モダリティ』という言葉で扱っています。各演技者が人間性や個性を表現する心情的言辞を担う『モダリティ』への評価は年々減り、『現代新体操の独創的な芸術追求は、得点を獲得するという″美徳″へと価値転換が起きている』と指摘しています。

″技″を見せること、複雑にすることで加点を得ること… コーチも選手もそればかりに必死で、表現の余地がなくなった結果、ほとんどの選手が同じ演技をするようにプログラムされた競技となっていきました。
また、音楽との関係性の希薄さも目立ちます。違う音楽にも関わらず同じ演目・振付で踊っていたり、音楽と関係なく終始笑顔で踊っていたり… 舞踊は音楽と密接に関わるものですが、技・難度=加点を優先した新体操の演技における音楽は、もはやBGMに過ぎません。

ルールの中でも  ”表現”  を豊かにするには何が必要でしょうか?

新体操では、基本をバレエレッスンとしています。しかし、筋肉や軸を作る身体的鍛錬であって、″表現″ まで行かずに終わってしまうことがほとんどです。その役になりきるとか、音楽に合わせて物語を進めるとか、バレエの本質まで届かないという問題があります。新体操を ″踊る″ ためのヒントが沢山あるはずなのに…

なぜ  美しさを競うのか?

バレエも新体操も、どちらも構造としてはスポーツ性も芸術性も持ち合わせています。スポーツにも芸術にもそれぞれの良さがあります。
ボールを扱うだけならバスケでもいい。体を動かすだけならラジオ体操でもいい。
大切なのは、なぜその「手段」を選ぶのか、選んだ「手段」だからこそできること、後世に守りたいものは何か、なのだと思います。技術は表現のための手段でしかないはずです。
「芸術スポーツ」である新体操は、心身共にかなり高次元な能力を必要とする競技だと思います。短い演技時間、短い選手生命の中でやることがたくさんあって大忙しです。

その中で、新体操を “踊る” ことはできるのか?

ルールは簡単には変えられないけれど、そこにアプローチする ”私” は変化させることができます。感性を豊かにすることもできます。

本当は、スポーツ/芸術という区分すらなく、もっと曖昧なところに、新体操やバレエ、それを踊る    “私” の本質があるはずだと思います。ダンサーとして、指導者として、振付家として、 様々な立場がありますが、それよりも、1人の人間として、ジャンルの壁など関係なしに、その本質の追究をしていきたいです。

AIが発展したり、すぐ効率や正しさを求められる社会の中で、いつまでも舞踊や踊り心が消えてなくなりませんように。

杉本音音

参考文献:渡部愛都子『新体操はスポーツか芸術か』( 2009,  幻冬舎ルネッサンス)

杉本音音先生プロフィール

1996年生まれ。東京都世田谷区出身。4歳より新体操とクラシックバレエ、15歳でコンテンポラリーダンスに出会う。立教大学現代心理学部映像身体学科卒業。新体操指導歴6年。

様々な振付家の作品に出演。ワークショップも行う。階段を振付として使用したダンス作品「6steps」プロジェクトメンバー。(コンセプト・発起人:木村玲奈)

その他、音楽・写真・テキスタイル・美術・映像など他分野とコラボレーションでの企画、振付、パフォーマンスを行う。身体を以って紡ぐ・思考することを目指して日々″今日のダンス″を探している。

【杉本音音先生オフィシャルサイト】
https://neonsugimoto.jimdofree.com/

杉本先生へのご質問、ご感想等はこちらよりどうぞ!
contact@ballet-japon.com

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