私の選択とバレエとの再会
今回は、大学後の就職活動と就職後のお話をしたいと思います。
大学生活も後半に差し掛かると、バレエ、サークル活動、バイト、そして就職活動。次第に両立が難しくなっていきました。ここでバレエから一度離れることになります。限られた大学生活の残り時間をサークル仲間と過ごし、「今しかできない経験」で満たすことを選んだからです。
就職活動では、「この会社に入りたい!」「こんな仕事がしたい!」という明確な目標はまだありませんでしたが、馴染みのあるチャコットの選考にも挑戦しました。結果は残念ながらご縁がなかったものの、その過程で多くの企業と出会う機会を得ます。思い描く企業が浮かばない時に母との会話の中で「結婚出産があると手に職をつけておいたほうが、復職がしやすいんじゃないかな」という言葉が心のどこかで響いていました。
まだ結婚や出産が具体的に想像できずにいましたが、仕事をしている母の言葉は現実味を帯びていました。そこで私は、
1.専門学校に通わなくても技術が学べる
2.身体を動かすことが好き
3.勤務地の選択肢が広い。
そんな自分に合っている条件の職に惹かれアロマボディケアセラピストという道を選びました。入社後は、技術だけでなく骨や筋肉の知識も深く学び、店舗で多くのお客様を担当。疲れを抱えて来店される方々を自分の手で癒す、そのやりがいは大きく、卒業後も安定した日々を送ることができました。
しかし、身体が資本の仕事には大きな壁もあります。
施術は中腰姿勢が多く、疲れが溜まると腰の違和感を感じていたある日、ついに腰を痛め、歩くことすらままならなくなったのです。診断は「脊椎椎間板症」
ブロック注射やリハビリを重ねて動けるようにはなったものの、「この先も身体を酷使し続けて大丈夫だろうか」という不安が芽生え始めました。
そして身体のことも考え、運動不足を解消するためにスポーツクラブへ入会。筋力をつける目的で通い始めましたが、ここでスイッチが入ります。スタジオプログラムの中にあったバレエクラス。それが、私のバレエ再スタートのきっかけとなりました。
出勤日とスタジオプログラムをチェックして予定を組むようになり、働きながらストレス発散程度にゆるくバレエを再開し、それがとても楽しく心地よく、再び生活の一部として自然に馴染んでいきました。
次回は、私の人生の中でも最も未知の領域——出産育児!編です。
進藤香織
バレエジャポン編集部からの質問
多くの人が“今しかできないこと”としてバレエを選ぶ中で、あなたはなぜあえてバレエから離れる選択が出来たのでしょうか?
週3回はトレーニング。冬場は、4ヶ月ほど雪山。スキーをするには想像以上にお金が必要だったので、バイトをしなければいけない。授業の4限を受けてレッスンに向かうにはダッシュしなければ間に合わない。などの物理的な問題がたくさんあった中で、バレエよりその当時は大学生活が有意義だったことで、迷うことなく決めました。また、新しいことへ挑戦したいという思いがあったため、スキーを途中で辞める選択はできなかったです。
大学時代を一言で表すとしたらどのような言葉でしょうか?またその言葉を選んだ理由を教えてください。
「遅めの青春」
中高時代はまだ東京に馴染めていない自分がいました。大阪への執着がすごくて笑。大学で仲間と大会に向けて練習したり、共同生活をすること、努力すること、助け合うこと、必死になることで、本来の自分が取り戻せた時期だったので、良いことも悪いこともたくさんの人生勉強ができた時期だったため、二十歳の青春です。
就職活動で「明確な目標がなかった」とき、どのような迷いや不安がありましたか?
就活中は友人たちとは進捗状況を話すようなことはなく、それぞれが就活と向き合っていて、周りと比べることがなかったのでそこまでの不安は感じていなかったです。1社目で4次最終面接まで通ったことで、楽観的に考えていたかもしれません。その後は苦戦しましたが。就活で本当にたくさんの企業があることを知ったので、いつか自分の理想の企業に出会えると思っていました。
就職活動は想像と実際でどのような差がありましたか?
就職浪人をする人もいて、大変そうだなと想像していました。一方で、私は受けたい企業が明確でなかった分、幅広い職種を知ることができたのは良い経験だったと思います。選考の中のグループディスカッションでは、発言力や提案力といった“話す力”のある人とそうでない人の差が歴然としていて、できる人に圧倒される場面もありました。企業が求めているのは、まさにこうした力なのだと感じつつも、今さらすぐに身につけられるわけもなく。ディスカッションが苦手な私は、自分がこれまで積み重ねてきた努力を率直に伝える方法で、自分らしさを知ってもらおうと考えていました。
就職活動を通じて「働くこと」や「職業選択」に対する価値観はどう変化しましたか?
1年生の頃から就活をする先輩を見て、働くことは学生生活の延長線上にある必然のことだと考えていました。当初は「就職先で人生が決まってしまう」と慎重になっていましたが、実際に就活を進める中で内定をいただいたり、内定先を吟味する時間を持つことで、「興味のおもむくままに取り組んでも大丈夫だ」と前向きに捉えられるようになりました。ただ、振り返るとインターンにもっと積極的に参加していれば、選択肢をより絞りやすかったのではとも思います。希望の企業に行けなくても、内定をもらった会社で経験を積んでから希望の企業を目指す友人もいて、4年の就活が全てではなくまだまだ選択肢はたくさんあることも知りました。
セラピストとして働き始めた頃、最初に直面した壁は何でしたか?
形のあるものに対する価値でお金をいただくのではなく、形のない自分の施術に対してや時間に対してお金をいただいているということが、自分の施術に自信が持てるようになるまでは怖かったです。
他者を癒すという仕事に携わることで、「身体」「心」「触れること」に対する理解はどう変わりましたか?
100人いたら100パターンの身体があるということ。心の回復の仕方も人それぞれで、会話をしてストレスを発散したい場合や、静かに心を休めたい人、心を癒す方法も100パターン。触れることでいかに安心感を与えられるか、これはとても大事なこと。呼吸を合わせたり、強弱をつけたり、私は手が大きいことを武器に、より安心感を広い面で感じてもらえるように施術を心がけていました。
セラピスト時代の一番嬉しかった思い出などありましたら教えてください。
はじめて指名をいただいた時です。これをきっかけに自分の施術だけではなく接客にも自信がついてきました。初めての指名は、先輩も一緒に喜んでくれて、認めてもらえたようでとても嬉しかったです。
セラピストとして培った“他者の身体を聴く感覚”は、現在のバレエの指導にどのように生かされていますか?また、その経験がなかったとしたら、どのような指導になっていたと思いますか?
一人一人身体が違うということは実際に触れてきて、身をもって理解ができています。なので、なるべくそれぞれに寄り添いたいな、寄り添わなければと感じられていると思います。セラピストの経験がなかったら、一人一人ではなく全体に向けての指導になっていたかもしれません。
「身体が資本」という言葉を実体験されたとき、一番不安に思ったことはなんでしょうか?
一番は、職場のスタッフに迷惑をかけてしまうこと。忙しい店舗だったので、休憩や休みをうまく回すことができなくなるのではないか、私以外の誰かが体調を崩した時の対応ができなくなるのではないかと、申し訳なさと焦りと不甲斐なさと。「身体が資本」の大変さを実感しました。
心身に無理をして仕事をされている方も多いと思いますが、当時の自分にアドバイスをするとしたらどのような言葉をかけますか?
今でこそ疲れたらストレッチをしたり、悩みは聞いてもらったり大事になる前に対処を心がけることはできていますが、当時の自分には「身体に違和感を感じたら、無理はしないで守りに入る。自分のケアを怠るとみんなに迷惑をかけて、辛い思いをするのは自分だよ」と言えたらいいですね。あとは、職場のコミュニケーションは大切にして、何かあったときに相談できる環境を整えておくことも大切にしておこう!
編集部より
今回も大変貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
進藤先生の前向きな姿勢や物事への柔軟さや広さは、どうしても一途になりがちなバレエの世界において、とても新鮮で大切な視点だと感じます。
数ある選択肢の中から、ご自身がもっとも納得できる形を選び、その時間を有意義に過ごされていること。そしてその経験が、次のチャレンジへとしっかり繋がっていることは、バレエ以外の道を不安に思う方々にとって大きな勇気となるのではないでしょうか。
特に、バレエのプロを目指す子どもたちにとっては、進学や就職といった一般的な道に触れる機会が少ないものです。だからこそ、中学卒業後、高校卒業後、大学や就職と続いていく人生の選択肢を知ることができる今回のお話は、非常に貴重で意義深いものだと感じます。
ご自身のご経験を率直に共有してくださったことに、心より感謝申し上げます。次回のコラムも楽しみにしております。
進藤香織先生プロフィール

桜井勢以子バレエ研究所にて桜井勢以子、石田泰巳に師事。
大学卒業後、ボディケアセラピストとしてボディメンテナス技術を習得。
バレエを取り入れたエクササイズのバレトン®︎インストラクター資格取得。
JADP認定乳幼児リトミックインストラクター®︎資格取得。
現在、桜井勢以子バレエ研究所にてバレトンクラスと親子バレエクラスの講師
バレエ安全指導者資格®ベーシック講座、プロフェッショナル講座修了。
バレエ安全指導者資格®︎認定講師。
【桜井勢以子バレエ研究所】
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