観劇レポート
3年に一度開催される〈世界バレエフェスティバル〉が、7月27日の特別全幕プログラム、マカロワ版『ラ・バヤデール』にて幕を開けました。初日の27日は英国ロイヤル・バレエ団からマリアネラ・ヌニェスとリース・クラークのペアが出演し、28日にはオランダ国立バレエ団のオリガ・スミルノワとビィクター・カイシェタが登場。両日とも一般販売の前に全席が完売し、日本人のバレエに対する熱意がひしひしと伝わってきました。今回あまりの人気でチケットが27日しか取れず、27日のみの観劇になりました。
今回、私は初めてナタリア・マカロワ版の『ラ・バヤデール』を鑑賞しました。留学時代にボリショイバレエ団のグリゴローヴィチ版に通い詰めていた私にとって、マカロワ版との出会いは驚きの連続でした。このマカロワ版は、ABT(アメリカン・バレエ・シアター)で初演され、プティパ版初演から失われていた終幕を復活させたもので、ストーリー全体が見事にまとまっているのです。
今回、プティパ版の初期ストーリーや演出に触れ、これまで何度も観てきた『ラ・バヤデール』がまったく新しい物語のように感じられました。思い返せば、留学時代にボリショイ劇場の最上階の立ち見席で友人と観劇した際、「最後に神殿が崩壊してみんな死ぬらしいよ!」と驚きながら話し合ったことがありました。2人で首を傾げていた過去が懐かしいです。
マカロワ版の『ラ・バヤデール』では、ニキアが命を落とす1幕、影の王国が展開される2幕、そしてソロルとガムザッティの婚礼が描かれる3幕という流れになっています。この終幕があるおかげで、ソロルの罪の意識やガムザッティの心理描写が深まり、物語にさらなる奥行きが生まれています。特に、天空のような場所で結ばれるニキアとソロルの姿には、神々しい光を感じました。この終幕がなぜ失われたのか、今後さらに調べたいと思っています。
ニキヤを演じたマリアネラ・ヌニェスの安定したテクニックから滲み出る神々しさはさることながら、彼女の一番の強みは音楽性ではないかと私は考えています。彼女は喜びに溢れた作品が何よりも似合いますが、ニキアという悲運でありながらも、力強い愛を体現して死んでいく女性を見事に演じていました。彼女の役作りには真っ直ぐに通った軸があり、どの役に対しても、自分とキャラクターの距離感のバランスを保ちながら演じているように感じます。そしてそれが溶け合った時、神々しく舞台に存在します。
今回ソロルを演じるのが初役だったリース・クラークも、『ラ・バヤデール』の一つの見どころ、ソロルの心の揺らぎ、後ろめたさが良く見える素晴らしい演技でした。
舞台だけでも素晴らしい思い出となりましたが、今回私のバレエ人生の中で大切な友人2人と、偶然にも一緒に観劇することができたのです。友人と共有した素敵な時間は、作品の感動とプラスして心に残る時間となりました。(3人で会うのは7年ぶり?でした。)
劇場でバレエを観るというのは、ただその時間を楽しむだけではなく、その前後の時間も含めての体験だと私は考えています。例えば、少し早めに劇場に到着して美味しいランチを楽しんだり、特別な服を着たり、いつもと違う色のリップを試してみたり。終演後に話足りなくて友人と感想を語り合ったり、1人の時には静かに感想をノートに書き留めたり。このようなすべての体験が、私にとっての「バレエを観る」という大きな幸せの一部です。
今回の観劇を通じて、バレエが私たちに与える幸せは、本当に多岐にわたるものだと感じました。そして、日本人のバレエに対する情熱や、劇場でバレエを観ることの意味を改めて考えるきっかけにもなりました。バレエそのものはもちろん大好きですが、その前後の時間も同じくらい大切なのです。この一日は、私にとって本当にかけがえのない時間であり、また一つ素敵な思い出が増えました。
文:大海遊楽
【大海 遊楽 プロフィール】
6歳よりバレエを始める。
2016年14歳 Hearts&MindsBalletConcursにて、ロシア国立ボリショイバレエ学校サマースカラシップを受賞。サマースクールにて年間留学オーディションに合格し、翌年より同校に留学。
バレエ安全指導者資格ベーシックコース修了。
バレエ安全指導者資格認定バレエ姿勢ベーシックインストラクター。
バレエジャポン専属アートライター
2024年
7月27日(土)15:00
ニキヤ:マリアネラ・ヌニェス
ソロル:リース・クラーク
ガムザッティ:上野水香
ハイ・ブラーミン(大僧正):安村圭太
マグダヴェーヤ(苦行僧の長):岡崎隼也
ブロンズ像:宮川新大
会場:東京文化会館(上野)
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
上演時間:約2時間50分(休憩2回含む)
https://www.nbs.or.jp/stages/2024/wbf-sp/