『一般社団法人日本バレエ・リュス&バレエ・スエドワ協会』創立記念式典および、新ブランド『ディアギレフ&マレ』発表会

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現地レポート

2024年6月1日、京都の東山にて『一般社団法人日本バレエ・リュス&バレエ・スエドワ協会』の創立記念式典および、新ブランド『ディアギレフ&マレ』の発表会に参列して参りました。

こういった”式典”と呼ばれるものに参加するのは初めてで、会が始まるまで緊張、戸惑いが渋滞しておりましたが、開演したと同時に目に飛び込んできたのは、二山治雄さん、中田亜優さんによる『薔薇の精』。一気に吸い込まれました。会場全体の緊張もどっかへ消えて、そこにあるのは美しいバレエという芸術だけでした。

私は、バレエ・リュスに詳しい訳では決してないのですが、小さい頃から『薔薇の精』だけは知っていました。学校の図書館で借りたバレエの本の中に、『薔薇の精』のニジンスキーの写真が載っていました。とっても有名なお写真です。バレエ・リュスを知らなくても、「この写真は見たことある」という方も多いのではないでしょうか。

バレエ史を勉強するまで、私のバレエ・リュスのイメージは完全にこの作品でした。ずっと生で『薔薇の精』を観たいと思っていましたが機会がなく、今回初めて生で観させて頂きました。

文章を書く者としてこんな表現はしてはいけない気がしますが、『薔薇の精』という作品、すっごく好きです。この作品の何もかも。今は残念ながらそれしか言えなさそうです。ごめんなさい。それ以外を語ると自分の言葉ではなく、嘘になってしまいそうなので。私がこの作品を飲み込みきれたら、またじっくり書かせて頂きたいです。

そして憧れの二山さんが薔薇の精を目の前で踊ってくださり、本当に感激でした。実は二山さんのInstagramにて『薔薇の精』に出演なさっているお写真を大分前に拝見させて頂き、絶対『薔薇の精』を最初に観るときは二山さんがいい!と思っていたのでした。残念ながら、リュスの作品が上演される機会は多くなく、今まで観る機会がありませんでしたが、思いがけず願いが叶ってしまいました。

中田さんを生で拝見するのは初めてでしたが、こんなにも”可憐”という言葉が似合う人はいるのでしょうか。中身が透けて見えてしまいそうなほど透明感溢れた演技でした。とっても可愛らしいお方です。それは決して容姿の事だけでなく、感情の揺れから全てを感じ取れるのです。

是非また違う役どころを生で観るために劇場に足を運びたいと思います。

そんな贅沢すぎる幕開けから始まり、理事の皆様のご紹介、剣でシャンパンの栓を切る”サーベラージュ”など、とても華やかなお時間でした。

その後お料理を頂きながら、代表理事である細辻伊兵衛さんと舞踊研究家の芳賀直子さんの対談をお聞かせ頂きました。お料理を食べる事を忘れるほど、とても興味深い対談でした。

私はバレエ安全指導者資格のベーシックコースにて芳賀先生のバレエ史の講義を受けさせて頂きましたが、僭越ながら、バレエのお話をされている芳賀先生のお顔が大好きで、導かれるようにずっと芳賀先生を見てしまいました。芳賀先生がお話ししてくださると、今までモノクロだった歴史がとたんにカラフルになります。いつも一緒にバレエの歴史の中を歩かせて頂き感謝しております。

そしてその後は1924年初演のバレエ・リュス作品『青列車』を鑑賞しながらのお食事でした。本当に五感が忙しかったです。

『青列車』は皆さんご存知のココ・シャネルがコスチュームデザインを、パブロ・ピカソが幕を手がけています。なんと豪華なのでしょう。

作品は知っておりましたが、『青列車』の映像は今まで見たことがなかったので、今回初めての観賞でした。コート・ダジュールという夏のリゾート地を舞台に、リゾートにやってきた若者たちのスポーツや遊びをバレエで表現しているようです。映像を見れば、これがバレエであることはもちろん分かりますが、書籍などの写真に残されている衣装だけを観ると、全くバレエの舞台とは思えません。それほどココ・シャネルがデザインした衣装は、当時の若者たちのファッションの流行を全面に出しています。この『青列車』が発表された時期は、ファッション史の中では”日焼けの時代”に入るようです。日焼けしにくい体質の人は、日焼けランプ、日焼け色のストッキングやおしろいを使って望みの肌色を作っていたそうです。バカンスがテーマであるだけに、そんなファッションの歴史も感じることのできる面白い作品でした。またじっくり観たいです。

会の終わりには、西島数博さんがご自身で演出、振り付けされた『-BOLERO-』を拝見しました。ここが劇場ではないことを忘れるほどのドラマチックさ溢れる演技でした。踊りを拝見している時は気づけなかったのですが、お衣装に『牧神の午後』が隠れていたようで…隅々までバレエ愛溢れる素敵な式典でした。

この式典中に機会がありお話させて頂いた方が、”歴史は残さないといけない”と仰っていました。私にとってすごく腑に落ちた言葉でした。

歴史は勝手に残るべきものが残っていくと思っていたところがありました。でもその考え方はあまり優しくなかったです。

どれだけのバレエが忘れ去られているのだろうと思います。歴史の一つ一つを拾える人間になりたいです。丁寧に。

私の京都に住んでいる祖父は芸術全般を愛していますが、今回この式典のついでに会いに行って、「バレエ・リュスって知ってる?」と聞いたところ、「知らない」と答えました。それを聞いたときに、「じいちゃんでも知らないのね…」と素直に思いました。

芳賀先生もお話しされていましたが、「バレエ・リュス」と「バレエ・スエドワ」は日本での認知度が極めて低いそうです。このことを祖父と会話していてとても実感しました。

バレエダンサーだけでなく、その時代の芸術界を代表する人々が次々にディアギレフによって集められ、作品を作り、なんといても世界を回ったのです。文字どおり「バレエ・リュス」がなければ今のバレエの世界はないでしょう。私もバレエに出会えなかったかもしれません。

そんな偉大なものであるはずなのに、「バレエ・リュス」と「バレエ・スエドワ」の作品が日本で上演される機会は残念ながら多くありません。よってバレエ史をしっかりと勉強しない限り、この2つのバレエ団に触れる機会は少ないと感じます。今回の式典を通して、日本のバレエ史にももっと触れていかねばと感じました。私もかつてそうでしたが、西洋のバレエ史や世界史ばかりを追い求めてしまい、肝心な自分の国である日本の勉強が疎かになってしまっていました。日本でのバレエの立ち位置はとても不安定であるのが現実です。バレエが日本に入ってきて100年以上が経っているのにも関わらず、バレエという存在を確立できていないように感じます。100年後の日本のバレエ界がどのようになっているのか知る余地もありませんが、少しでも優しく、愛溢れる世界になるように、私も日本で生きる身としてしっかりバレエの日本史も学んでいけたらと思います。

思いある方々が募った場所に参加させて頂き光栄でした。未熟すぎる身ではありますが、私も少しでも歴史を記録するお手伝いができたらいいなと思っています。そのためにも日々楽しみながらバレエを学んでいきます。

沢山のことを感じさせて頂いた式典でした。改めて皆様に感謝いたします。

文:大海遊楽
写真:中谷広貴

参考文献
海野弘編著(2020)『ロシア・バレエとモダンアート 華麗なる「バレエ・リュス」と舞台芸術の世界』、パイ インターナショナル
海野敏(2023)『バレエの世界史』、中央公論新社
芳賀直子(2014)『ビジュアル版 バレエ・ヒストリー バレエ誕生からバレエ・リュスまで』、世界文化社
DK社編集(2020)『FASHION 世界服飾大図鑑 【コンパクト版】』、河出書房新社

初めてローザンヌの二山くんの踊りを見た時に、”わたあめみたい”と思ったのでした。甘くて柔らかくて淡くて、触ったら溶けそうな踊りでした。二山くんがローザンヌで優勝した2014年、私は中学1年生でした。本来なら二山さん、とお呼びしないといけない所ですが、今回は自分勝手ですが、あの頃の自分に合わせて二山くんと呼ばせてください。

そこから時代は進み2024年、私は22歳になりました。その間留学したり、怪我して手術したり、それを機に病んだり、色んな事があり今は踊っていませんが、ご縁で文章を書かせて頂いております。バレエが出会わせてくれた人や全ての物事に感謝しています。

【大海 遊楽 プロフィール】

6歳よりバレエを始める。
2016年14歳 Hearts&MindsBalletConcursにて、ロシア国立ボリショイバレエ学校サマースカラシップを受賞。サマースクールにて年間留学オーディションに合格し、翌年より同校に留学。
バレエ安全指導者資格ベーシックコース修了。
バレエ安全指導者資格認定バレエ姿勢ベーシックインストラクター。
バレエジャポン専属アートライター


一般社団法人日本バレエ・リュス&バレエ・スエドワ協会 概要

〒604-8174
京都市中京区室町通三条上ル役行者町368
株式会社永楽屋 5階
https://www.japan-ballets-russes-ballets-suedois-association.com

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