『マノン』追記 パリ・オペラ座日本公演2024年2月【大海遊楽の恋するバレエ】

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観劇レポート 追記

感想文を書いていて一行目に書くことではないとは思うのですが、「まとまるわけがない。」が素直な気持ちです。

あまりにも社会的背景が濃すぎるプレヴォの『マノン・レスコー』と言う物語を20世紀に偉大なる振付家ケネス・マクミランが振り付けし、ジュール・マスネの曲の中からマーティン・イェーツが編曲し、英国ロイヤルバレエ団で初演され現在世界各地のバレエ団で受け継がれている作品です。

ただの一般人である私がまとめ上げられるわけがありません。

主人公達の人間模様だけでいっぱいいっぱいなのに、主人公達以外に目を向けられていない人間が一体どれだけいるのだろうと思います。当時の人たちをマノン達だけの目線で消費している感じがして、、しっかり目を向けようとするともはや訳が分からなくなるほど重く悲しくなります。

私が『マノン』と言う作品に初めて触れたのは10代の頃でした。どこのバレエ団のマノンを観たのかは忘れてしまいましたが、TVで放送されたものを家で1人で見て何一つ理解できなかったことを覚えています。10代の、そして現代の日本に住んでいる私には余りにもかけ離れすぎていて、他のバレエ作品のようにはすんなり入ってきてくれませんでした。もう少し知識があれば違ったかもしれませんが、、、

その当時はガツガツ踊っていた事もあって、「沼地がとにかくすごい」と言った感想しか覚えておりません。

20代になって今回初めて『マノン』全幕を生で観る経験をしました。初日はドロテ・ジルベールとユーゴ・マルシャンでしたが、びっくりするほど泣けませんでした。私は結構バレエを観ると泣いてしまうのです。楽しい作品でも泣いてしまったりします。何に感動しているのか悲しんでいるのかは時によって違いますが、今回の『マノン』は私が泣いていいものではないと感じました。

今回『マノン』初日を観劇していて、あまりの情報量の多さについていけなかったのだと思います。と言うのも、主人公達以外の街でただ周りにいる人々の人生が重すぎて一人一人を考えているともはや頭と心がパンクしてしまいました。全幕を通して本当に色んな階級の人々が出てきます。鼠取りのおじさん、乞食達、娼婦達、そして貴族、、、。アメリカに流刑されたマノンと同じく流刑されてきた女性達の姿は心から胸が痛みました。頭を刈られボロボロの肌着を見に纏った裸足の女性たち。倒れている彼女達の間をアメリカの綺麗な身なりの日傘を差した貴婦人が歩いている風景を思い出すと今も苦しくなります。

一人一人見ようと思えばいくらでも入り込める作品です。この作品は私が泣いていいものではないと強く感じました。涙として消費したくありませんでした。(私は今回そう感じただけで、涙を流すことを責めるつもりは一切ありません。)

この作品は曖昧さも作り込まれている気がします。バレエ作品において主人公である女性キャラクターは必ずバリエーションやソロがあると思います。この『マノン』と言う作品の中でマノンが1人で踊るシーンは2幕の一曲のみです。私はこのシーンがとても好きです。マノンが唯一誰にも利用されず自分らしく生きているシーンだと感じるのです。このソロの間周りの人間の時は止まり、その空間にはマノンとデ・グリューとムッシューG.M.のみという演出が施されます。この2人にマノンが目を向ける振り付けがあるのですが、そこが狂うしいほど切ないのです。マノンは本当にデ・グリューを愛していたのか?という疑問が残る作品ですが、私は愛していたと思います。心から。人間って本当に複雑です。彼女のお金と愛の間で揺れ動く曖昧さも何もかも人間を感じさせられて神秘的な気分になります。

今回『マノン』を見に行く前にプレヴォの『マノン・レスコー』を拝読しました。急に口調が変わってしまいますが、原作のマノンは10倍やばいやつです。でも10倍愛らしい人です。

これはデ・グリューにも当てはまります。原作にて沼地でマノンが息絶えたあと24時間キスをし続けると言った情報は当初私を混乱させました。バレエ作品のデ・グリューのイメージとあまりにもかけ離れていたからです、、、。

バレエ版の『マノン』は少々美化されているなと感じるところがあります。それが悪い訳では決してなく、言葉のない芸術であるバレエだからこそその曖昧さこそが沢山の人の心に優しく響くのだと思います。

18世紀の文学を20世紀の振付家が振り付けバレエとしての『マノン』が生まれ、そして21世紀の今たくさんのダンサー達の間で感じ尽くされたこの作品を、今度は観劇者が感じ尽くす。

芸術って本当に連鎖するなって最近思います。そしてこうやって深く考えていくと結局人間っていいなになってしまいます。

最後沼地でマノンが生き絶える中幕が降りる時、3人のパリ・オペラ座のデ・グリューは全く質の違う悲しみを表現してくれました。どれも人間であって3人ともとても好きです。

一面で人間を判断できる訳がないように、一つの作品一つのキャストで深められないことも、色んなダンサーの色んな役作りを通してそのキャラクターの一面を一つづつ理解していくのだと思います。

この『マノン』と言う作品においてはその事を深く感じました。

多様な作品、経験を通して一つの芸術を理解する、人間を理解する、そして自分を理解する。私はただ観劇しているだけの一般人ですが、そんな事を普段から自然としているのだと思います。その生き方しかできないみたいです。

たくさんの悲しみを与えてくれたこの『マノン』と言う作品に感謝したいと思います。そしてこの作品の裏にいる沢山の人間たちに思いを馳せながら生きて行きたいです。

文:大海遊楽

【大海 遊楽 プロフィール】

6歳よりバレエを始める。
2016年14歳 Hearts&MindsBalletConcursにて、ロシア国立ボリショイバレエ学校サマースカラシップを受賞。サマースクールにて年間留学オーディションに合格し、翌年より同校に留学。
バレエ安全指導者資格ベーシックコース修了。
バレエ安全指導者資格認定バレエ姿勢ベーシックインストラクター。


『マノン』パリ・オペラ座日本公演 公演概要

「マノン」全3幕
音楽:ジュール・マスネ
振付:ケネス・マクミラン
オーケストレーション・編曲:マーティン・イエーツ
原作:アベ・プレヴォー
装置・衣裳:ニコラス・ジョージアディス
照明:ジョン・B.リード

2024年
2月16日(金)19:00
マノン:ドロテ・ジルベール
デ・グリュー:ユーゴ・マルシャン
レスコー:パブロ・レガサ
レスコーの愛人:ロクサーヌ・ストヤノフ

2月17日(土)13:30
マノン:ミリアム・ウルド=ブラーム
デ・グリュー:マチュー・ガニオ
レスコー:アンドレア・サリ
レスコーの愛人:エロイーズ・ブルドン

2月17日(土)18:30
マノン:ドロテ・ジルベール
デ・グリュー:ユーゴ・マルシャン
レスコー:パブロ・レガサ
レスコーの愛人:ロクサーヌ・ストヤノフ

2月18日(日)13:30
マノン:リュドミラ・パリエロ
デ・グリュー:マルク・モロー
レスコー:フランチェスコ・ムーラ
レスコーの愛人:シルヴィア・サン=マルタン

2月18日(日)18:30
マノン:ミリアム・ウルド=ブラーム
デ・グリュー:マチュー・ガニオ
レスコー:アンドレア・サリ
レスコーの愛人:エロイーズ・ブルドン

会場:東京文化会館(上野)

上演時間:約2時間45分(休憩2回含む)

指揮:ピエール・デュムソー
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

https://www.nbs.or.jp/stages/2024/parisopera/manon.html


まだマノンを観たことのない方はこちらがオススメ!
平野亮一さんもご出演の英国ロイヤルバレエ団「マノン」

出演:
マノン:サラ・ラム
デ・グリュー:ワディム・ムンタギロフ
レスコー:平野 亮一
ムッシューG.M.:ギャリー・エイヴィス
レスコーの恋人:イツァール・メンディザバル 
ほか 英国ロイヤル・バレエ

演出・振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ
指揮:マーティン・イエーツ 演奏:コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団
収録:2018年4月26日、5月3日 コヴェントガーデン王立歌劇場

https://www.fairynet.co.jp/SHOP/4589538738754.html

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