『マノン』パリ・オペラ座日本公演2024年2月【大海遊楽の恋するバレエ】

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観劇レポート

2024年パリ・オペラ座来日公演、『マノン』全キャスト観劇して参りました。
ロマン主義文学の原点と言われているアヴェ・プレヴォの『マノン・レスコー』が原作の全3幕のバレエ作品です。
20世紀を代表する振付家ケネス・マクミランの代表作とも言える本作は1974年に英国ロイヤル・バレエ団で初演されました。
ジュール・マスネの美しい抒情的な音楽にピッタリとはまった振付。物語の展開も早く非常に観やすいバレエ作品になっています。

先にあらすじに軽く触れさせて頂きます。
物語の舞台はフランス。全幕を通してヒエラルキーの生々しさを強く感じます。時代設定としてはアヴェ・プレヴォが生きた18世紀、フランス革命前の時代かと思われます。
修道院に入る直前だった少女マノンと神学生であるデ・グリューは出会ってすぐに恋に落ちます。
その後すぐに駆け落ちしますが、マノンの兄レスコーはお金欲しさにお金持ちのムッシューG.M.に妹であるマノンを売り付けます。
デ・グリューの留守中、駆け落ちし逃げ込んだ下宿にムッシューG.M.がやってきます。G.M.との裕福な暮らしか、デ・グリューとの愛溢れた暮らしか、、、マノンは揺れ動きますが選んだのはお金。ムッシューG.M.との暮らしでした。
その後デ・グリューはマノンを取り返すためムッシューG.M.の館にてカードゲームでいかさまをしてお金を手にしますが、いかさまがバレてレスコーはムッシューG.M.に殺されマノンはアメリカへ流刑されます。流刑地でもマノンは利用され酷い仕打ちを受け、ルイジアナの沼地にて夫と偽りついてきたデ・グリューの腕の中で息絶えます。

これがざっとしたあらすじです。ここまで書いてきて、本当にとんでもない話だなと思うと同時に、この小説が18世紀に出版されてから数々の著名人が読み研究してきた事、21世紀の現代でも読み継がれる理由が分かる気がします。

私の主観ですがバレエ版の『マノン』は少々美化されてる所があると思っています。それが良い悪いではありませんが、原作の濃度の濃い人間模様を感じるとバレエの『マノン』を観る目も変わると思うので、気になる方は原作もチェックして頂けるとより深く楽しめるかと思います。

さて、長くなってしまいましたがここからが今回のパリ・オペラ座来日公演の感想です。

2024年3月16日〜18日まで開演された『マノン』。ドロテ・ジルベール&ユーゴ・マルシャン、ミリアム・ウルド=ブラーム&マチュー・ガニオ、リュドミラ・パリエロ&マルク・モローの3ペア。どちらかと言うとオペラ座の中ではベテランなダンサーたちの共演といった印象です。

まず言えることは、本当に全キャスト全く違う物語でした。やはりドラマチックな作品はダンサー達の役作りのこだわりを感じて観ている側も作品への解釈が深まります。
そして『マノン』という作品において、原作である『マノン・レスコー』の文章の中でマノンの容姿に対する描写が一つもない事がとても面白い点です。そのため3人とも人それぞれ本当に艶やかなマノンではありますが、艶やかさの質の違いを感じました。

こちらでは観劇していて特に印象に残った2ペアの感想を書かせて頂きます。

● ドロテ・ジルベール&ユーゴ・マルシャン(16日公演)
私は初日は絶対観劇するタイプなので絶対に見逃せなかったこの2人。
本当に息ぴったりで、ユーゴのサポートがドロテの全てを出させていると感じました。これはテクニックのみならず感情面も入ります。長年ペアを組んでるだけあって観ていて安心感のある全幕でした。
ドロテのマノンはとにかくお茶目。気分屋の猫のようにユーゴのデ・グリューが惑わされ振り回されている様子がよく伝わります。
そしてユーゴのデ・グリューはとにかく子犬でした。全幕を通してずっとソワソワきょろきょろしていました。
彼の不思議な所は写真で見る限りとてもガッシリとした大柄なダンサーに見えるのに、舞台に立つと本当にしなやかさ、柔らかさが目立ちます。
マノン=「ファム・ファタル」と言う認識はされていますが、近年の研究者の意見で、デ・グリューこそが「オム・ファタル」魔性の男であると言う意見も出てきているそうです。それがよく分かるユーゴのデ・グリューでした。

● リュドミラ・パリエロ&マルク・モロー(18日公演)
この2人の物語はとにかく知的でした。
DVDでは何度か観ていた『マノン』、当然あらすじも頭に入っています。そして私にとっては『マノン』観劇3日目の最終日。それなのに1幕2幕を観劇していてこの2人が沼地に辿り着くビジョンが全く見えませんでした。
リュドミラは1幕で登場してきた時シンデレラかな?と思うほど聡明で気品溢れたマノンでした。一幕のマノンの衣装は水色のドレスです。聡明で育ちの良さと気品を感じるので本当にシンデレラの様でした。
1幕序盤は全く欲の強い女性には見えませんでしたが、ムッシューG.M.とのやり取りくらいから覚悟を感じました。自分の役割というか。なんというか。性的に消費されることへのあきらめ?使命感?とにかく覚悟を感じました。
善悪の話ではなく、「私はこの道に進むことが使命」そんな声が聞こえてきた気がします。
だから彼女のマノンは、いや自業自得よ感がありませんでした。
こんなにも美しくて聡明な女性のたどり着くところが何故沼地なのよ?!!って感じでした。

マルク・モローのデ・グリューはどっからどうみても優等生でした。真面目さ、優しさが満ち溢れており、マノンに出会い一直線にアプローチするシーンは見てはいけない彼の一面を見ている様で少し恥ずかしくなりました。そのくらいマノンに出会ってからの一直線っぷりがすごかったのです。
これから先この2人には幸せしか待ってない!と思えるほどに沼地を感じさせない爽やかなカップルでした。
そんな爽やかさをズドンと感じさせてくれたシーンが実はありまして、それは一幕のベッドルームのシーンです。このシーンの振り付けは難しい振り付けのオンパレードですし、バレエ作品の中では中々ないくらいの長いキスシーンもあります。
ですが私が心に残ったのは終盤音が盛り上がる所にあわせて、ただ寄り添って歩くシーンです。確か四歩ほど。今でもこのパリ・オペラ座来日公演の『マノン』の中で一番印象に残っているシーンです。

このペアが1番感情移入させられました。どう考えても沼地に行くはずのない2人が沼地へとどんどん吸い込まれていく様子が非常に重かったです。
マルクのデ・グリューの、最後マノンが息絶え幕が降りる瞬間の悲しみの体現がとてもリアルで好きでした。人間が悲しむときの等身大を見せてくれました。とてもいい終幕でした。

ここでは多くは触れられませんが、ミリアムとマチューの『マノン』も素晴らしいものでした。まるでマノンを失った後のデ・グリューの回想を一緒に眺めている様な、、そんな舞台でした。1番原作に近く感じたのはこのペアでした。

ここまで書かせていただいて、本当にとんでもない作品だなと再度思います。
あと10年経ってもう一度この作品を見たら、全く違う感想を書いている自信があります。
この物語の本質は時代をも超えてしまう不変的なものなのだと思います。そして答えの出せない哲学的な人間としての問いがきゅっと詰まった作品なのだと思います。
改めてこの作品に出会えてよかったです。
本当に沢山の解釈、感じ方ができる作品だと思いますので、是非鑑賞する機会がございましたら自分の心に素直に問いかけてあげてみてください。
きっと自分を知るきっかけにもなる作品です。

最後まで読んで頂きありがとうございます。いつかあなたと劇場でお会いできる日を楽しみにしております。

文:大海遊楽

【大海 遊楽 プロフィール】

6歳よりバレエを始める。
2016年14歳 Hearts&MindsBalletConcursにて、ロシア国立ボリショイバレエ学校サマースカラシップを受賞。サマースクールにて年間留学オーディションに合格し、翌年より同校に留学。
バレエ安全指導者資格ベーシックコース修了。
バレエ安全指導者資格認定バレエ姿勢ベーシックインストラクター。


『マノン』パリ・オペラ座日本公演 公演概要

「マノン」全3幕
音楽:ジュール・マスネ
振付:ケネス・マクミラン
オーケストレーション・編曲:マーティン・イエーツ
原作:アベ・プレヴォー
装置・衣裳:ニコラス・ジョージアディス
照明:ジョン・B.リード

2024年
2月16日(金)19:00
マノン:ドロテ・ジルベール
デ・グリュー:ユーゴ・マルシャン
レスコー:パブロ・レガサ
レスコーの愛人:ロクサーヌ・ストヤノフ

2月17日(土)13:30
マノン:ミリアム・ウルド=ブラーム
デ・グリュー:マチュー・ガニオ
レスコー:アンドレア・サリ
レスコーの愛人:エロイーズ・ブルドン

2月17日(土)18:30
マノン:ドロテ・ジルベール
デ・グリュー:ユーゴ・マルシャン
レスコー:パブロ・レガサ
レスコーの愛人:ロクサーヌ・ストヤノフ

2月18日(日)13:30
マノン:リュドミラ・パリエロ
デ・グリュー:マルク・モロー
レスコー:フランチェスコ・ムーラ
レスコーの愛人:シルヴィア・サン=マルタン

2月18日(日)18:30
マノン:ミリアム・ウルド=ブラーム
デ・グリュー:マチュー・ガニオ
レスコー:アンドレア・サリ
レスコーの愛人:エロイーズ・ブルドン

会場:東京文化会館(上野)

上演時間:約2時間45分(休憩2回含む)

指揮:ピエール・デュムソー
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

https://www.nbs.or.jp/stages/2024/parisopera/manon.html


まだマノンを観たことのない方はこちらがオススメ!
平野亮一さんもご出演の英国ロイヤルバレエ団「マノン」

出演:
マノン:サラ・ラム
デ・グリュー:ワディム・ムンタギロフ
レスコー:平野 亮一
ムッシューG.M.:ギャリー・エイヴィス
レスコーの恋人:イツァール・メンディザバル 
ほか 英国ロイヤル・バレエ

演出・振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ
指揮:マーティン・イエーツ 演奏:コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団
収録:2018年4月26日、5月3日 コヴェントガーデン王立歌劇場

https://www.fairynet.co.jp/SHOP/4589538738754.html

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