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パリ・オペラ座バレエ『椿姫』
ノイマイヤー作品ならではの
微細な心理表現を
つぶさに見て取れる

藤田一樹
(ダンサー)

現代バレエの巨匠ジョン・ノイマイヤーの代表作である「椿姫」。舞台は19世紀のパリ。
高級娼婦マルグリットと青年アルマンの出会い、そして別れを描いたデュマ・フィスの小説を基にした大作です。
「椿姫」と聞くと、ヴェルディのオペラを思い浮かべる方が少なくないかもしれません。しかしノイマイヤーは、創作にあたってショパンの音楽を使用。
原作と同時代に生まれた楽曲を用いることで、未だかつてない情感溢れるバレエ作品を生み出しました。
1978年にシュツットガルト・バレエで初演されて以降、現在も複数のバレエ団で上演され続けています。
今回ご紹介するのは、今春来日が予定されているパリ・オペラ座バレエのプロダクションを収めたDVDです。

2008年7月、パリ・オペラ座ガルニエ宮で行われた公演を収録した本作。
キャストにはマルグリットのアニエス・ルテステュ、アルマンのステファン・ビュヨンを筆頭に、スターダンサーたちが顔を揃えています。
圧倒的な技術はまさに折り紙付きと言っていいでしょう。最大の見所は、各幕に配されたパ・ド・ドゥ。
特に第三幕の通称「黒のパ・ド・ドゥ」は、揺れ動く感情を細やかに、そして激しく表現。リフトが多用された超絶技巧を要する振付として、作品のハイライトとでも言うべき場面です。
ガラ公演でも上演される頻度が高く、一度は目にした方が多いかもしれません。
また、ノイマイヤー作品ならではの微細な心理表現をつぶさに見て取れるのは、映像ならではの体験です。
劇中劇として上演される「マノン」の世界、そしてマルグリットの心象風景が折り重なる演出は、まるで劇映画を観ているかのような雄弁さ。
登場人物たちの心の叫びが一挙手一投足、些細な視線のやり取りにさえ宿っているように感じられます。
説明的なマイムに頼ることのない、観客の想像力に訴えかけてくる振付だからこそ、代々受け継がれていく名作になり得たのでしょう。
バレエファンのみならず、普段バレエに触れることのない方にもお勧めしたい一作です。
作品情報
【作品タイトル】
『パリ・オペラ座バレエ
『椿姫』(プロローグ付・全3幕)』
【作品概要】
ショパンの旋律にのせて
ルテステュが娼婦マルグリットの悲恋を
気高く切なく踊るノイマイヤーの傑作!
ヴェルディのオペラでも有名なデュマ・フィスの小説「椿姫」を元にジョン・ノイマイヤーが創作した傑作。2007年のアレッサンドラ・フェリの引退公演でも話題になったほか、09年2月にはハンブルク・バレエが来日公演で上演し、好評を博した演目である。公演が平日の神奈川で、残念な思いをしたファンも多かった。
高級娼婦マルグリットの悲恋を踊るのは、気品と美貌と技術を兼ね備えたアニエス・ルテステュ。マルグリットへの情熱的な恋を語る若いアルマンには躍進著しいステファン・ビュヨン。父ムッシュ・デュヴァルには往年のスターダンサー、ミカエル・ドナール。そして友人ガストン子爵に昨年エトワールに昇進したカール・パケット、プリュダンスにはドロテ・ジルベールと人気・実力ともに兼ね備えたダンサーが顔をそろえる。
舞台全編にわたって流れるショパンの旋律。切ないピアノの音にのせて踊られる青・白・黒の3つのパ・ド・ドゥが、娼婦と若者の出会いの戸惑いと愛の喜び、狂おしいまでの情熱を心情豊かに表現している。
劇中劇「マノン」の主人公に、ムッサンとマルティネズという豪華キャストもオペラ座ならではといえよう。
【出演】
マルグリット(高級娼婦):アニエス・ルテステュ
アルマン(ブルジョワ青年):ステファン・ビュヨン
ムッシュ・デュヴァル(アルマンの父):ミカエル・ドナール
プリュダンス(マルグリットの友人):ドロテ・ジルベール
ガストン子爵:カール・パケット
公爵(マルグリットのパトロン):ローラン・ノヴィ
N伯爵(マルグリットの愛人志願):シモン・ヴァラストロ
オリンピア(マルグリットの商売敵):エヴ・グリンツテイン
マノン(劇中劇「マノン」の女主人公):デルフィーヌ・ムッサン
デ・グリュー(劇中劇「マノン」の男主人公):ジョゼ・マルティネズ
ナニーヌ(マルグリットの召使):ベアトリス・マルテル
【振付】
ジョン・ノイマイヤー
【音楽】
フレデリック・ショパン
【演奏】
ミヒャエル・シュミッツドルフ指揮 パリ・オペラ座管弦楽団
【ピアノ】
エマニュエル・ストロッセル、フレデリック・V・クニッテル
【美術・衣装】
ユルゲン・ローゼ
【照明】
ロルフ・ワルター
DVD情報
2008年7月2・5日 パリ・オペラ座 ガルニエ宮での収録
価格:¥4,800(税抜)
発売元:日本コロムビア
【収録内容】
◆特典映像◆
・椿姫への追想(ドキュメンタリー)
・ストーリー紹介
※日本語字幕付
今回のレビュアー/藤田一樹プロフィール
1991年神奈川県生まれ。演劇を学んだ後、ジェローム・ベル構成演出「ザ・ショー・マスト・ゴー・オン」への出演を機にダンスに転向。クラシックバレエを中谷広貴に師事。市田京美、岡登志子にコンテンポラリーを学ぶ。
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