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アメリカン・バレエ・シアター「ドン・キホーテ」
ABTの日本人初のソリスト
加治屋百合子のキトリ、
ダニール・シムキンのバジルは必見!

加藤千尋
(ダンサー・バレエ教師)
アメリカン・バレエ・シアターは、アメリカではニューヨーク・シティ・バレエ団と並ぶ2大カンパニーですが、今や世界中からトップダンサーが集まるスター集団として知られています。今回はそのアメリカンバレエシアター(以下、ABT)の日本公演時の「ドン・キホーテ」を観させて頂きました。
主役のキトリには、日本人として唯一ABTのソリストとして活躍している加治屋百合子、バジル役には日本でも人気急上昇中の大注目ダンサー、ダニール・シムキンが踊っています。
ドン・キホーテは、世界中の主要なカンパニーならほぼレパートリーの一つとしている大変人気のある作品です。スペインを舞台としたこの作品の底抜けに明るい雰囲気、(レオン・)ミンクスの音楽、個性豊かな登場人物達は観ている私達を幸せな気持ちにしてくれます。
加治屋百合子のキトリは、華奢な身体つきながらダイナミックな動きと表情豊かな表現力で、下町の愛嬌溢れる人気者の役柄をとてもよく体現しています。彼女は以前「私はABTのダンサー達の中では、ジャンパー(ジャンプを得意とするダンサー)だと言われているの」と話していましたが、本当に大きく華やかなジャンプで最初の登場から、キトリというハードな役をのびのびと演じています。
バジルを演じたダニール・シムキンの魅力は、何と言ってもその圧倒的なテクニックにあります。登場から続くジャンプや回転の超絶技巧を、全ていとも簡単そうにやってのけてしまう身体能力の高さには只々驚くばかりです。彼は、私がバレエ団にいた頃にもよく来日をしていて、今回と同じドン・キホーテのバジル役で客演もしてくれていました。スタジオで間近に見る彼のジャンプやピルエットには、本当に皆口がポカーンと開いてしまう程。その少年の様な可愛らしさの残る容姿と共に、リハーサルに日の丸のハチマキで臨むなど、気さくでフレンドリーなキャラクターも大人気でした。
主役の2人の他にも、個性豊かなキャラクターがたくさん登場するのが、このバレエの魅力です。理想の女性であるドルシネア姫を求めて、旅に出て来たドン・キホーテと、彼の従者である少しおとぼけ者のサンチョ・パンサ。キトリにしつこく求婚する、ガマーシュ。街1番のヒーローであるエスパーダと、恋人であるメルセデス。闘牛士達に、キトリの親友である可愛らしい花売り娘達など…。挙げ出したら本当にキリがないほど。
スペインの街並みから一変して、幻想的で美しい夢のシーンでは、先程までおきゃんな街娘だった加治屋が、全く違った雰囲気のドルシネアを観せてくれます。儚いながらも美しいラインと、詩情溢れる踊りに、ドン・キホーテでなくても、心を奪われてしまいそうです。メルセデスと森の精の女王を踊った、ヴェロニカ・パールトの大人の女性の魅力溢れるヴァリエーション、キューピットのレナータ・パヴァムも、一般的なブロンドのカールヘアーのイメージとは違いましたが、可愛らしいキューピットです。
居酒屋のシーンでの、バジルの狂言自殺のドタバタ劇の後、いよいよ全幕を通して最大の見どころである、キトリとバジルの結婚式のシーンです。
このグラン・パ・ド・ドゥは、もう本当に素晴らしいテクニックの連続で、特にシムキンのヴァリエーションは必見です。コーダの見どころである、キトリの32回転のグランフェッテは、少し変わったバージョンで、こちらもとても珍しいので楽しめると思います。
色々なバレエ団のドンキを観てきましたが、ABTのヴァージョンには何だかとても自由な雰囲気を感じました。主役2人のフレッシュな魅力ももちろんですが、このカンパニーのダンサー達1人1人の、舞台上で演じているそれぞれの役が、本当に活き活きとしているからかなと思いました。
作品情報
【作品タイトル】
『アメリカン・バレエ・シアター
「ドン・キホーテ」』
【作品概要】
人気急騰中の若手ダニール・シムキンと、ABTの日本人初のソリストであり、日本人として初めて全幕主演を果たした加治屋百合子主演による「ドン・キホーテ」。
バジルはまさにシムキンの当たり役で、空を切る跳躍、驚異的なバランスに回転力、しなやかな舞い…“ワンダーボーイ”シムキンの今の魅力を存分に味わえる。キトリ役の加治屋も軽やかな踊りで表情豊かにスペイン娘を演じ、見どころの多い楽しい舞台となっている。
【出演】
キトリ:加治屋百合子
バジル:ダニール・シムキン
ドン・キホーテ:ヴィクター・バービー
サンチョ・パンサ:フリオ・ブラガド=ヤング
ガマーシュ:アレクセイ・アグーディン
メルセデス、森の精の女王:ヴェロニカ・パールト
エスパーダ:コリー・スターンズ
花売り娘:サラ・レイン、イザベラ・ボイルストン
キューピッド:レナータ・パヴァム
原振付:マリウス・プティパ、アレクサンドル・ゴールスキー
振付:ケヴィン・マッケンジー、スーザン・ジョーンズ
音楽:レオン・ミンクス
演奏:東京シティ・フィル
収録:2011年7月 東京文化会館
DVD情報
2011年作品 108分収録
片面2層,チャプター有,メニュー画面
カラー/16:9
音声 ステレオ/リニアPCM
¥4,800+tax
発売元:日本コロムビア
今回のレビュアー/加藤千尋プロフィール
4歳で栗林キミ子バレエスタジオにてバレエを始める。この時バレエが本当に好きになり、将来の夢はバレリーナになる事だった。その後、小学4年生の時に長野県に引越し、栗林先生の勧めだった長野バレエ団に片道2時間半かけて通う。その後中学卒業後に、また東京に戻り早川恵美子、博子に師事。
平成12年NBA全国バレエコンクール 中学生の部 第4位の1
全国舞踊コンクール ジュニアの部 入選
そして、チャイコフスキー記念東京バレエ学校に入学。友田優子、弘子、佐野志織に師事。
第1回スクールパフォーマンスでキューピットを、第2回スクールパフォーマンスではオーロラ姫を踊った。
平成19年 チャイコフスキー記念東京バレエ団に入団。
古典や現代作品など主要な演目に参加し、国内ツアー、ヨーロッパツアーにも参加。
平成25年 同団を退団し、現在は後進の指導にあたっている。
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