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金田・こうのバレエアカデミー主宰 こうの恭子さん

金田和洋・こうの恭子ご夫妻の厳しくも温かい指導のもと、東京都東村山市と千葉県流山市にある二つの教室で毎日子どもたちが汗を流す、金田・こうのバレエアカデミー。今年で30周年を迎えたアカデミーからは、娘である金田あゆ子さん、金田洋子さんをはじめ、多くの生徒がプロのダンサーとして羽ばたいていきました。コンクール入賞者もたくさん輩出していますが、「生徒をコンクールに参加させるのは教師にとっても勇気の要ること」と、こうの先生。その真意とは──?
――お教室を開いた当初から、コンクールを視野に入れていたのですか?
いえ、当時はコンクールが今ほど身近ではなかったし、さほど興味もありませんでした。でも上の子が5年生、下の子が3年生くらいの時に、同じ年代でがんばっている生徒が何人かいたんですね。ヴァリエーションを踊ることは、自分自身と向き合うこと。普段はなかなか一人で踊る機会がありませんから、コンクールで勉強できることは多いのではないかと思って、挑戦させてみることにしたんです。教室を始めて10年目くらいのことでした。

コンクールで1位を受賞した4人の生徒(瀧愛美さん、藤田菜美さん、中村ひとみさん、平木菜子さん)によパ・ド・カトル。2012年のアカデミー公演より
――実際、みなさん成長されましたか?
クラスへの向き合い方が明らかに深くなりましたね。それに、自分のことを自分でできるようになったことも大きい。メイクと着替えは私や助手の先生がやりますが、あとのことは本人次第なので、例えばトウシューズのヒモがほどけてしまっても自分の責任だし、反対に賞をもらったとしても、それは私が取らせたんじゃなく、自分の力で勝ち取ったものなんです。娘たちのおだんごも結ってあげなかったので、二人とも泣きながらやってましたね。当時は恨まれましたけど、おかげで今はすごく上手(笑)。

次女の金田洋子さん。2012年のアカデミー公演より
――そのお嬢さんをはじめ、たくさんの入賞者を出していらっしゃいますね。
でも私は、結果を出した子にはいつも、「おめでとう!でも明日からは忘れなさい」と言っています。結果を引きずると、どうしても、1位を取る=すごい子、落ちる=ダメな子という考え方になったり、1位を取ったことがプレッシャーになって精神的におかしくなったりしてしまう。大事なのはバレエが好きな気持ちと、コツコツと粘り強く努力することなのに…。だからうちでは、発表会で配るプログラムでも「この子がコンクールで1位を取った子です」というアピールはしていないんですよ。公演で大事なのはチームの力。2009年のユース・アメリカ・グランプリのアンサンブル部門で1位をいただいた時は、そういううちの教室らしさを評価していただけた気がして、すごくうれしかったですね。
――結果に左右されないことは、頭では分かっているつもりでも、なかなか難しいことかもしれないですね。
本当にそうですね。特に親御さんは、努力の過程を見ていないから、どんなに厳しいレッスンを乗り越えてきたかを知らずに結果だけを見て、プレッシャーをかけたりバレエを辞めさせたりしてしまう。選ぶ側も神様ではありませんから、評価が絶対ではないし、コンクールに出ずにプロになる子だっているんです。それなのに、コンクールの結果次第でその子の人生が変わってしまうこともあるので、参加させることは私たち教師にとってもすごく勇気の要ることですね。キラキラした目でレッスンしていた子が、コンクールや留学がきっかけでバレエを辞めてしまうほど悔しいことはありませんから。

長女の金田あゆ子さんと大嶋正樹さん。2012年のアカデミー公演より
――コンクール前には、どんなレッスンをされるのですか?
コンクールのためのレッスンは週に1回だけで、そこでも一人1回ずつヴァリエーションを踊らせて注意をするだけなので、あとは1週間後までにどれだけ自分で直してこられるか。私は決してすごい先生ではありませんが、ほめ方だけは上手なんですよ(笑)。どこがどう良かったかを具体的に伝えて、「そういうところ先生大好き!」と言ったりします。努力してきたかどうかは見れば分かりますから、そんな時は思いっきりほめる。手取り足取り教えるのではなく、自分の中から出てくる踊りを大切にすることが、プレゼンテーション力が足りないと言われる日本人の欠点を補うことにもつながると思っています。
――体調管理の面で、何かアドバイスされることはありますか?
コンクールではやはり体型も重視されますから、太らないように注意を促すことはありますね。夜はあまり食べないこと、お肉だけでなく魚も野菜もまんべんなく摂ること、それとゆっくり食べることが大事。「とりあえず満たす」のではなく、楽しんで食べるよう言っています。ほかにも、体を冷やさないようにとか、傷めたところはアイシングするとか、基本的なことは言いますが、全部やってあげるのは好きじゃないんですよ。ストレッチにしてもサプリメントにしても、自分に足りないものを補うにはどんな方法がいいのか、自分で調べて見つけてほしい。今は本やインターネットで、いくらでも情報が手に入りますしね。
――コンクールを通して、子どもたちにどんなことを身につけてほしいですか?
夢中で踊ること。全力で向き合うこと。そうすることで初めて、お客様と最高の時間を共有することができます。その喜びを知っていれば、ダンサーだけでなく、教師や舞台スタッフという道もある。実際うちの卒業生で、今はバレエ衣裳の仕事に就いている子もいるんですよ。コンクールに出る出ない、プロになるならないに関係なく、中途半端な取り組み方では喜びにつながらないことを、バレエを通して学んでもらえたらと思って日々指導にあたっています。
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こうの恭子さんプロフィール
経歴
現代舞踊の井形久仁子のもとで舞踊を始め、江川明、小川亜矢子らに師事。日本バレエ協会や井上バレエ団など、数多くの公演にソリストとして出演。1983年、夫の金田和洋とともに金田・こうのバレエアカデミーを開校した。全国舞踊コンクール(2001、2006)、埼玉全国舞踊コンクール(2005)、ザ・バレコン東京(2007、2011)、ジャパングランプリ(2007、2008、2011)、NBA全国バレエコンクール(2010)で指導者賞を受賞。ザ・バレコン東京(2007、2008)、ザ・バレコン福岡(2009)では審査員を務めた。